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水田のなんとも言えない水の香り。
家のどこからともなく香ってくる蚊取り線香の匂い。
田舎の町を吹き抜ける風の匂い。
どれもこれも、小さい頃はおじいちゃんの家に帰ってきたんだと実感させてくれた匂い。
蝉が鳴き、カエルが鳴き、夜には虫も鳴いて・・・・・・何だか都会とは違って騒がしい外の音。
おじいちゃんの家の近くを走る電車の、がたんがたんと大きく響く電車の音。夜中は貨物が通るから、凄く響くんだよなあ。
でも、他に音はない。
たまに道路を車が走る音がするけど、電車が走る音より少なかったな。
そんな総てが懐かしく、でも、今や二度と感じ取ることのない匂いと音たち。
祖父が亡くなって十年。僕はもう、それだけの期間、そんな匂いや音と出会っていない。
「似たような場所に行っても、あれとは違うんだよな」
お盆になっても都会の片隅で、それも一人で空を眺めるのは何とも味気ないものだと、この年になってようやく気づく。ああ、あれも一つの青春のようなものだったなと、そう気づいた時には、総てが遠くにあって手が届かない場所にある。
あの日と同じような入道雲を見つめながら、ちょっとセンチメンタルになる夏の日――
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