根回し開始

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木村先輩も、翔さんも、多分今の俺よりも高2時点でずっと大人で、いろんなことを見てくれていたんだ。 いくら技術的に高くても、俺一人では殿前を引っ張っていくことはできなかった。でも北見がもし推薦で入学していたなら、北見一人でだったらある程度できたかもしれない。 木村先輩のスパルタで、俺も人前での立ち居振る舞いを叩き込まれ、北見を見て「なるほど」と思い、何とかかんとかキャプテン役を演じることに慣れていったけどさ。 本質的には俺は、そういう役割じゃないんだよ。 北見の方が、ずっとちゃんとした「キャプテン」だ。 そんな風に思っているから、チームが別れ大学が別れた今も、北見から連絡が来るとちょっと懐かしくて嬉しくて、本来の用事じゃないことまでぺらぺらとしゃべってしまう今日この頃。 結花とは一日五分と約束して、それを守っているのに。 北見と電話でしゃべりだすと30分経っていたりする。もちろんスピーカーにして両手を空けて、ストレッチとか腹筋とかしながらだけどさ。 でも、野田とのことは北見にはあまり話していない。 連絡を取っているということは、引退する前にちょっと話したけど…多分それっきりだ。 俺と野田が、後輩たちが対戦したり勝ったり負けたりするたびに一言二言メールをやり取りしていたり、大学合格したら会おうなんてことを口約束とはいえしていたことも、伝えていない。 もう何のわだかまりもないけれど、俺の心の底の底…絶対見せないところに、北見の過去の傷に対する恐れというか、あいつを傷つける可能性に対する怖さみたいなのがあるから。 俺は全然そう思っていないけど、北見は俺の怪我の原因が、自分の出したラストパスだと…頑なに思い込んでいるのを、俺も実は気が付いてるから。 お互い、絶対に言葉にはしないけど。
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