逃げ口上

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逃げ口上

 江戸時代は、どこぞの将軍やら幕府やらが手塩にかけ、約二六五年間続いたそうな。  お見事。 たとえ私が意志ある歴史だとしても、そんなに長くは気が持たぬでしょう。 だからみて見たい。 だから覗かせて欲しい。 そんな気長に愛された時代のお話を。  ただ、皆が知る歴史は他で習い知るでしょう。そこに生きた道理もまたしかり。  いま(つたな)くつるつると解いていくのは、ちょっと狂った、そのへんの時代の話。    月に帰るはずのかぐや姫は、帝とめでたく結ばれて、この地で罪を償った。月に兎はおらず、赤い金魚が満月に浮きあがる。  火消はどこぞの花形なのだろうが、ここでの花形は、大雨の中、水門を開ける水守り達。  神も仏も皆仲が良く、自分の持ち分で楽しくやっている。排仏棄釈なんてこの先も起こりえるはずのない、同じ多神教同士上手くやろう……。    月代(さかやき)、総髪はどこかで消えての、今風流行り髪。  着流し小袖はあるけれど、男が(かんざし)を差して何が悪い? 女が地下足袋を履いて、松の剪定をするのって普通でございましょ? それが、珍しい枝垂れ松であっても、技量がありゃ文句は無い。  湯屋の習慣は同じでも、異性と思う性とは別湯を取る事。  身分があったとしても、これが意外と、帯刀の武士より、商人、町人が強かったりする。まぁ、経済を回していますしね。そして、職人。手に専門の職を持つ、頑固な人達。    何かを生み出す時、必ず彼ら職人の手が加わっている。  いま生み出されたのは、二対一体(についいったい)の石像。  ちょっと違う狂った時代に、彼らを世に生み出したのは、口下手な石工(いしく)の職人。    どうか二対(につい)が駆ける世が、天下泰平、それでありますように。
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