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「ごめんね、お父さん。またラーナが勝手に」
「いいんだよ、ラフィア。暇なのは事実だから」
自分のことを案じてくれているラフィアは今から三十年近くも前に生まれた我が娘であった。今はこうして老衰してしまった我が身を案じて、自分たちが住んでいる家に住まわせてくれていた。
「そう……。それじゃあ、いつもの」
「あぁ、頼んだ」
ゆっくりと起き上がろうとするのをラフィアは支えてくれ、なんとかしてベッドの上に座ることができた。
そして、ラフィアが背中の方に回り、そっと手を背中へと添える。
それは、ラフィアによる治療魔法だった。
何度も転生している中で、こうした魔法だの魔術などが存在する世界にも生を受けていた。それなりに経験してきたため当たり前になっていた。そういった異能の力があれば、それに準じた世界となり、異能の力がなければ、それに準じた世界になった。だから、異能の有無で不便などを感じたことはなかった。
何度も転生を繰り返した身の今では胸踊ることもなくなった。
それに、今生きているこの魔法のある世界でも七十年近く生きてきたのだから。
「お、お父さん……」
ラフィアが背中越しに弱々しい声で呟いた。
その声が自分の死期を確信するものとなったのだった。
「そうか、もうダメか」
何度も転生を繰り返していればこういったタイミング、瞬間を予想することも容易なことであった。
カップラーメンに注いだお湯が何分経ったか図らずとも、任意のタイミングで開けて食べるように。
戦いの中で、この人は自分よりも強いと感じる瞬間のように。
何度も繰り返す中で人という生き物は理解していく。そのタイミング、瞬間を。
「知っていたの……?」
「まぁ、自分の体だからな」
ラフィアが感じている以上に、自分自身が己の命の限界を感じていた。さきほど目が覚めてから瞼を開けるまでの時間。瞼を開けてから周りのことを理解するまでにかかった時間。そういった体感から感じていたのだった。
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