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「い、いますぐみんなを──」
「いや、もう長くない。だから、最後はお前に見ててほしい」
「長くないって、それでも、今すぐトールやジータおじちゃんとか呼べば、今日中には……」
「そんなにもたん」
「そんなのわからないじゃない」
「わかる」
「えっ……」
「お前にはわからんくても、わかるんだ。はっきりと」
嘘でもなんでもなかった。本当にもうすぐ死ぬことを感じていた。
ゆっくりとなっていく鼓動。今にも遠のいてしまいそうな意識。そういう死期を確かに感じていたのだった。
「お父さんがいうなら、きっとそうなんだね……」
「あぁ……」
「お父さんのおかげで不自由なく、今日まで生活できた」
「親として、当たり前のことをしてきただけだ」
「お父さんが魔法を教えてくれたおかげで名門であるグラート魔法学院に入学できて、首席で卒業することができた」
「お前が天才だったんだよ」
「お父さんが認めてくれたから、トールと結婚することができた……」
「お前が見つけてきた人だ。認めるもなにもない」
「お、お父さんがいたから……」
一つ、またひとつとラフィアの目元から床へ涙が落ちていく。その涙を拭うことも止めてやることもできなかった。
「泣くんじゃない。人はいずれ死ぬんだ。十分生きた。ソフィアよりも十年も長くな」
この世界での永遠の愛を誓った妻、ソフィア。
彼女は十年前に病でこの世を去った。その時もラフィアは懸命の治療魔法などをしてくれていたが、その命の灯火を照らし続けることはできなかった。
「私は結局、二人とも救えなかった」
「何をいってるんだ。それよりも多くの人を救ってきただろう」
「でも、大切な人を救えていない!」
真っ赤になった目でこちらを見つめてくるラフィアの瞳には悔しさがにじみ出ていた。
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