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お見送りの場所に着くと、大人たちは袋からきゅうりとなすの馬を出して道端の草の上に並べ、その傍に、ロウソクで火をつけたお線香の束を一人ずつ置いていった。おじいちゃん、おばあちゃん、私の両親、叔父さんに叔母さん、そして――りゅうくん。
そのときが、来てしまった。
りゅうくんは告げた。
「……ばいばい、絵理ちゃん」
その瞬間、風がさっと吹いて、気だるい熱帯夜の空気を斬り裂いた。辺りは真っ暗だったけれど、提灯の灯りに照らされて、私のお父さんとお母さんの目尻がきらきらと光っているのがわかった。
りゅうくんはきゅうりとなすの馬を黙って見つめていた。もう少し悲しんでくれてもいいのに、とも思ったけれど、あのときのりゅうくんはまだ幼かったから、仕方がない。
今年の夏も、私は故郷に戻ってきた。けれど、みんなと一緒に帰ることはできない。私の居場所は、ここではなくなってしまったから。
ああ、あと5分だけでいいから、この場に留まっていたい。みんなにも、お父さんにもお母さんにも、そしてりゅうくんにも、ここに留まってもらいたい。夜の帳の中に私だけぽつんと取り残されて、りゅうくん達は私のいない朝を迎える。そんなの耐えられない。一昨年の夏も、去年の夏も何とか抑え込んだ思いが、堰を切ったように溢れてきて、私はりゅうくんの腕を掴もうと手を伸ばしたけれど、りゅうくんの体をすり抜けて、指先が虚空を撫でただけだった。
やがて誰ともなく元来た道を帰り始め、最後にりゅうくんが、りゅう帰るよ、という声に促されて歩き出した。私の思い込みかもしれないけれど、その背中は心なしか物憂げな気がした。
私の“3年目”の夏は、僅か三日目の、今日で終わりだ。さよならりゅうくん、また来年の夏も来てね。私も、必ず帰ってくるから。絶対だよ。
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