夏を求めて

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 セミたちが明日に備えて休息を取り、代わって鈴虫が演奏会を始めたころ、私とりゅうくんは畳敷きの部屋で寝っ転がって過ごしていた。りゅうくんはうつ伏せで上体だけ肘で支えながら、携帯用ゲームをプレイしていた。日中、外で思いっきり夏休みを漫喫したのに、家に帰ってもまだまだ遊び足りないのだ。小学生にとって、夏休みとは遊び倒すべき宿敵なのだ。  私はりゅうくんの日焼けした頬をつついたり、私と違ってまったく癖のかかっていない髪をくるくるといじったり、シャツが捲れて少しだけ見える脇腹をくすぐったりと色々な意地悪をしてみたけれど、りゅうくんは全然気にしなかった。私はちょっとむすっとして、 「ふーんだ」 と言いながら転がり、りゅうくんの傍を離れて仰向けになった。  りゅうくんの髪、まっすぐで素敵だな。短く切りそろえても少しくねくねしてしまう自分の髪の毛をいじりながら、そう思う。  手持ち無沙汰で、ホットパンツから伸びた真っ白い脚を天井に伸ばしてぶらぶらさせてみると、指先に少し古ぼけた天井があった。私はりゅうくんと会えるのを去年の夏からずっと心待ちにしていたのに、電灯が吊るされたその天井は去年とちっとも変わらなくて、一年なんて無かったみたいだった。顔だけ横に向け、ガラス戸の外に目をやると、辺りはもうすっかり真っ暗だった。この後“お見送り”をしたら、お盆休みももう終わり。明日にはりゅうくんたちは帰ってしまうんだ。 「そろそろお見送りに行くから、支度しなさーい」  部屋の外から、りゅうくんのお母さん――私の母の妹、つまり叔母さん――が呼びかけてきた。りゅうくんは相変わらずゲームに熱中していた。 「今いいところだから、ちょっと待って!」 「何をわがまま言ってるの!ゲームは節度を守って遊ぶって、約束したでしょ!」 「あと5分!5分だけでいいから!」  中々ゲームを中断しようとしないのに痺れを切らして、叔母さんがぷんすか怒りながら部屋に入ってきた。りゅうくんのプレイ画面を覗き込むと、ラスボスと決戦を交えている最中だった。私はりゅうくんの粘りを応援したくなった。 「おばさんお願い。あと5分だけ、待ってあげようよ」 「ダメ!みんなもう支度できてるの。いい加減にしないと取り上げるよ」    叔母さんはさらに一歩踏み込んできた。 「あっ!あとちょっとで倒せたのに!」  りゅうくんが悲鳴を上げた。怒りのこもった足音にびくっとして、操作をミスしちゃったんだろう。ゲームオーバーを宣告され、りゅうくんは渋々ゲーム機を折り畳んだ。 「ちぇー……」 「さあ、行くよ」    叔母さんに促され、私たちは部屋を出た。
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