橘部長には愛が足りない_1

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 昼食後は、研修という名目の時間拘束。それが終わり帰り支度をしていると、なぜか橘部長が目の前に来て、私を見下ろして無表情で言った。 「髪を切ったお詫びをするから、来なさい」  来なさいって、一体どこに連れていかれるの? 美容室とか?  でももう髪はのびて、切った部分がどこなのかもわからない。そして、あの日は面談が控えていて気が急いたから「結構です」と断ったが、今日は断る理由がない。私は思案しながら、しばらくの間、橘部長を見上げていた。  観察してみたけど、何を考えているのか全然読み取れない。とりあえず、顔がいい。 「来なさい」  もう少しこの人を知りたいと思った私は、笑ってふたつ返事をした。相変わらず橘部長は無表情だったから、本当に詫びる気あるのか疑いたくなる。  そのやりとりをそばで聞いていた杉岡さんが、終始私を睨み付けていたのが怖かった。  杉岡さんは橘部長の秘書だそうで、きっと第一印象最悪の私が嫌いなんだろう。  なんだかよくわかんないけど入口が狭い、見るからに高そうな一見さんお断りっぽいお店に連れていかれて「はぁー東京はハイカラじゃのう」とババくさい感想を述べていると、入口で店員さんに止められた。 「お連れ様の身分証を確認させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」 「ああ、すみません。橘部長、少し待っててくださいね」  背が低くて童顔の私が未成年に間違えられるのはよくある事。ただ、この店は本当の意味で高級なのだろう。店員さんの言い方も態度も、まったく嫌味を感じなかった。  私は素直に免許証を出して確認してもらった。成人した花の二十一歳ですからね!
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