私と30分後の私

5/8
前へ
/8ページ
次へ
*  30分後の自分と会話するようになってから一ヶ月ほどの月日が流れた。  ある雨の日だった。  高校からの帰り、私は電車に揺られていた。  ポケットに入れていた携帯電話が揺れたので、誰からなのか確認すると「30分後の私」からだった。  さすがに電車の中で電話に出るわけにはいかない。  まだ私が電車に乗っていることはわかっていると思うのだけど、どうしたんだろう。  コールは鳴り続けた。  延々と鳴り続けた。  困ったなと思いつつ電車の窓の向こうを見た。ちょうど川を越えるところだった。  見慣れた景色がただ流れていく。いつもの町といつもの夜景だった。  やがて最寄り駅の網島(あみしま)駅に着いた。電車を降りたタイミングでまた電話が鳴った。  また「30分後の私」からだった。  電車を降りる時間も知ってるんだから、このタイミングでかけてきたのだろう。 「はいはーい」  私は電話に出た。 『駅から出ないで!!』  予想しない叫びだった。思わず携帯電話を耳から離すほどだった。 「どしたの? 何かあった?」 『お願いだから! その電車にもう一回乗って! どこでもいいから行って!!』 「え? もう電車行っちゃったよ?」 『じゃ、じゃあ……次に来る電車に乗って!」  そう言われても次に来るのは特急電車だ。この駅には停まらない。 「ね、落ち着いて。どうしたの?」  私のことなのに、私には何故「30分後の私」が叫んでいるのかわからない。 『駅を出ちゃダメ! そこで……爆発事件が起きる!!』  その叫びは、私の心臓をドクンと高鳴らせた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加