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私はその女性の顔を見て驚いた。
どこかで会ったような気がしたからだ。
でも、その答えは直ぐに見つかった、この春、下の階でストレッチをしていた時、コンクリートの柱にひたすら鉄砲稽古の姿勢を真似ていた女性だったからだ。
私の驚いた表情から、彼女も3か月前の私に気づいたようである。
それが証拠に私の視線から顔をそむけると、彼女が一言放った。
「私・・柱は押しても、プールの水は全部飲まないから安心して・・」
私にジョーク言い残した彼女は、間もなくプールから上がってしまった。
そしてシャワールームの方に歩きだした。
その姿を見て私は再び驚いた、なんとプールサイドを歩く彼女はまるでライザップ後のコマーシャルビデオを見ているようだったからだ。
「先に返されてしまったジョーク」だと、その時はそう思った。
でも、あれから30年、当時とは異なるジムに通う私だが、顔見知りが増えるにつれ、毎日があの日と同じような局面を体験することが多くなった。
それだけに今になって思えば、あの夏のあれは、彼女のジョークでは無かったような気がする。
あの時の彼女は、真剣に怒っていたのかも知れない⁉
であれば、失礼なことをしてしまった、謝罪しなければならない。
初めて声掛けをしたのが春だった、初対面の私に体形をいじられたところで「苦笑いしながら立ち去った」と、私は身勝手な言葉を並べたが、彼女の中では相当怒り心頭していたのかもしれない。
もしかして、それを機に私への報復を企て、それからと云うもの、意地のダイエットが始まったのかも知れない。
それから約3か月後の夏、スリムになった彼女は再度、私と出会った。
というか、彼女は私と再会することをむしろ望んでいたかのかもしれない。
それは、俗に言う男女の意味合いではなく、言葉への報復をしたかったからだろう。
だから、あのようにスマートで強烈な皮肉が飛び出したのだろう。
普通は顔を思い出すだけでも大変なのに、なぜ直ぐに分かったのだろう?・・きっと私が気づかないところで、意識をしていたに違いない「機会あらば言い返してやろう」ってね。
それは筆者、あなたの思い過ごしだよ! 他人はあなたが思うほど、あなたのことなんか注目なんかしていないよ! それこそあなたの妄想だ! ってそんな声がどこからともなく聴こえたのは気のせいか⁉
そうそう、当時の右腕の上腕火炎の件だが、あの夏アニメーターさんの言っていた通りだった。
左手でラーメンを食することが出来ると、次々と左手で事がなせるようになった、
そしてなんと一年後の夏には、無意識に右手に握った洗面器でお風呂のお湯を汲み上げていた、3年も悩んでいたのに、とても嬉しい出来事だった。
―完―
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