走れない95年・冬

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 私は、その一万円札を手にすると、店の前の歩道に飛び出していた。 歩道の端には今朝、私が雪かきをした名残がまだ僅か残されている。 私は山田さんが向かったであろう方向に目をやった。 ずーっと先の交差点では信号待ちをする何人かの人物が居た。 「あれだ?・・」 私は何人かの人混みの中から、山田さんらしき人物を見つけたのである。 「今から走れば追いつけるはずだ⁉」  そう思った私は最初、小走りで走り出した。 いま、山田さんが信号待ちをする交差点には勿論のこと、さらに曲がった先の銀行の交差点にも信号機がある。 「どちらの交差点も赤信号を無視して横断出来るような交通量ではない、タイミングが良ければ時間が稼げる!」  そんなことを考えた私は、少し足を急がせた。 ところがだ・・ 「どないしたんや? 何で進まんのや?・・ぃ、いったい、この足どうなったんや、めっちゃ重たいやないか!」  その時の私は、腰から下がまるで自分の身体では無いような感覚を覚えた。  勿論、これが「ひと夏の思い出」だと毛頭、幕を下ろすつもりは無い・・なぜなら、これを体験したのは春だったからである。 しいて言えば、一春の思い出と言えるかもしれないかな⁉
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