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アンティーク鏡と捨てた女
片づけが、あらかた終わり、夜になった。
「仕事の準備があるから、先に寝ていてくれ」
「うん。お休みのキスしてからね!」
「あ、ああ」
チュッ
「おやすみ、パパ!」
「ああ、おやすみ」
恭一は、にっこりと笑って妻を寝室に見送った。
「……あんなブスとキスをするなんてな。口が腐るわ」
元より、恭一は絵里奈のことを愛しているわけではない。
絵里奈は、流通大手「小川興産」の中核企業で持株会社「小川グループ」の創業者、小川隆三の愛娘なのだ。
小川グループは、全体で従業員10000人、近く上場する見込みの成長企業だ。
いわゆる政略結婚である。
「こんな不細工、単なる捨てゴマ。踏み台でしかない」
声には出さぬものの、常にそう思っていた。
恭一は、妻子が寝静まったことを確認したのち、手鏡を取り出して、じっと見た。
「誰だ? こんな気味の悪いアンティーな鏡を紛れ込ませたヤツは……」
眉間にシワを寄せて、鬼の形相で手鏡を隅から隅まで見た。
心当たりが、少なからずあった。
「く……。誰だこんな嫌がらせをする外道は。過去は、全て清算したはずだぞ。こんなものを送り付けたのは、だれだ? 香澄か? 京子か?」
恭一は、過去に自分と関係を持った女の名前を思い出していた。それも、出来得る限り。
「いや、香澄も京子も、手切れ金を渡し、口留めもしてある。であれば、誰だ? まさか」
一人、思い当たる女がいた。
「亜里沙か。いや、亜里沙だけはあり得ない」
恭一は、己の性欲の捌け口として、また、虚栄心を満たす道具として、多数の女を使い捨てにしていた。
だが、政略結婚を前に、あらゆる手段を使って口留めと慰謝の措置をしていた。
ただ一人。相川亜里沙を除いて。
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