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「飲み物、準備できましたよ?」
その反対側のドアが開けられた部屋に入って、美乃華は声を出した。
理路整然とした部屋だった。
「ああ、分かった」
部屋の真ん中にはテーブルと椅子が置かれ、椅子に座っていた男が、振り返りながら言った。
左手の人差し指と中指に火の点いた煙草を挟んでいて、その指は節くれだっていてすらりと長い。
煙草をつまんで、テーブルに置いてあった灰皿に押しつけると、その人物は立ち上がる。
一八〇センチはあろうかという長身。引き締まった身体つきをしている。見た目は二十八歳くらい。椅子を仕舞って、美乃華の方に向き直った。
黒髪は首のあたりで無造作に切られている。切れ長で吊り上がった目をしており、瞳は黒。目はウルトラマリン(群青色)。肌は白く、高めの鼻梁と、薄い唇。端正な顔立ちをしているので、女性が黄色い声を上げるのは間違いないだろう。だが、口が悪い。
肌の色とは対照的に、黒のワイシャツをボタンも留めずに羽織っており、黒のベルトに、スラックス、革靴を身に着けている。
ワイシャツの隙間から、古傷が覗く。
テーブルが置いてあるその右奥にはベッドがある。入って右側にはクローゼットがあり、左側には姿見。その隣には使い物にならなくなったワイシャツやスラックスを捨てる専用の大きめのゴミ箱が置かれている。床は落ち着いた茶色で壁は灰色。
テーブルの上にはノートパソコンと灰皿が置かれている。
左手に黒い日本刀を一本持って、美乃華の傍と姿見の前を通り過ぎた。
しかし姿見に男の姿は映らない。
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