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結婚式
ついにこの日がやって来た。
私は今、 人生最大の緊張状態にあった。
椅子に座ったまま、胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。しかし、高鳴る鼓動は一向に収まる気配がなかった。
扉の前に立つ女性が声をかけてくる。
「あと5分で入場のお時間となります。ご準備を」
私の心臓はこれまで感じたことがないくらいに強く弾んだ。
「はい」と、堂々と立ち上がるつもりが、口から出た言葉は「へ、へいっ」。足取りも覚束なかった。我ながらなんと情けない姿だろう。
「大丈夫ですよ。緊張するのが普通なんですから」
打ち合わせ当初からずっとお世話になっているプランナーの言葉に、私は少しだけ救われた。
呼吸を整え、控え室の扉を開ける。
今日は結婚式。
ついにこの日がやって来た。
待ちに待った・・という表現は少しおかしい気もするが、私の心はとても満たされていた。
初めて会った日から、もうかれこれ五年。
彼とは本当に色々あった。
最初の頃は喧嘩ばかりだったなあ。
そんなことばかり考えていたせいで、昨夜はほとんど眠れなかったんだ、と振り返る。
それも今となっては良い思い出だ。
チャペルへ続く重厚な扉の前に立つ。
ああ、ついに……
「間もなく新婦が入場なさいます」
挙式会場に流れるアナウンス。
同時にパイプオルガンの演奏が始まった。
扉が開く。その先には白く長いバージンロードが続いていた。
ついに、この日が来てしまったんだなあ。
「行こう、お父さん」
ウェディングドレスに身を包んだ娘が私の腕を取る。
緊張は、いつの間にかなくなっていた。
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