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「俺と付き合って下さい!」 「いいよ」 「ただし、」 「夏休み限定で」  葉月努(はづきつとむ)が憧れの同級生、一夏(ひとなつ)いちかに告白したのは、一学期の終業式の日だった。  放課後、努はいちかに告白するため、彼女の後を追った。ひと気がなくなったところで告白するつもりだった。  運良く、いちかは一人で屋上へ向かった。努も足音を忍ばせ、錆びたドアをゆっくり開き、屋上へと入った。 「……」  いちかは屋上の柵の前に立ち、物憂げな表情で地面を見下ろしていた。長い黒髪が風でなびく。日に焼けていない肌は、雪のように白かった。  いちかは美人で、成績優秀で、男子の間では知らぬ者はいない人気者だった。他校からわざわざ告白しに来た生徒もいる。いずれもすげなく断られたそうだが。  努も、自分がいちかと付き合うのは不可能に等しいと自覚していた。しかし、どうしても彼女と過ごす夏休みを諦め切れなかった。  来年は受験で、遊ぶどころではなくなってしまう。去年は告白する生徒が連日いちかに押し寄せ、努が付け入る隙がなかった。つまり、今年は一生に一度のチャンスなのだ。 (一夏さんと夏休みを過ごしたら、確実に一生の思い出になる! 絶対に諦めない!)  努は意を決し、いちかに声をかけた。 「一夏さん」  いちかは努の存在に気づき、ハッと振り返った。一人だと思っていたのか、ひどく驚いていた。  努はいちかの前に歩み寄ると、腰を直角に曲げ、手を差し出した。 「好きです! 俺と付き合って下さい!」 「……」  いちかは努の手をジッと見つめる。  やがて状況を把握すると「いいよ」と軽く返した。 「へっ?!」  あまりにも呆気ないOKに、努は目を丸くする。冗談で承諾したのかもしれないと、いちかの顔を確認したが、彼女の顔は真剣そのものだった。 「や、やった。ばんざーい……」  努は顔を上げると、ぎこちなく笑い、軽く万歳した。まだ実感がわいていないせいか、感情が追いつかなかった。  するといちかは「ただし、」と続けて言った。 「た、ただし?」  途端に努は硬直する。一体どんな条件をつけられるのかと固唾を呑んだ。  いちかは表情を一切変えることなく告げた。 「ただし……夏休み限定で」
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