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1,
「俺と付き合って下さい!」
「いいよ」
「ただし、」
「夏休み限定で」
葉月努(はづきつとむ)が憧れの同級生、一夏(ひとなつ)いちかに告白したのは、一学期の終業式の日だった。
放課後、努はいちかに告白するため、彼女の後を追った。ひと気がなくなったところで告白するつもりだった。
運良く、いちかは一人で屋上へ向かった。努も足音を忍ばせ、錆びたドアをゆっくり開き、屋上へと入った。
「……」
いちかは屋上の柵の前に立ち、物憂げな表情で地面を見下ろしていた。長い黒髪が風でなびく。日に焼けていない肌は、雪のように白かった。
いちかは美人で、成績優秀で、男子の間では知らぬ者はいない人気者だった。他校からわざわざ告白しに来た生徒もいる。いずれもすげなく断られたそうだが。
努も、自分がいちかと付き合うのは不可能に等しいと自覚していた。しかし、どうしても彼女と過ごす夏休みを諦め切れなかった。
来年は受験で、遊ぶどころではなくなってしまう。去年は告白する生徒が連日いちかに押し寄せ、努が付け入る隙がなかった。つまり、今年は一生に一度のチャンスなのだ。
(一夏さんと夏休みを過ごしたら、確実に一生の思い出になる! 絶対に諦めない!)
努は意を決し、いちかに声をかけた。
「一夏さん」
いちかは努の存在に気づき、ハッと振り返った。一人だと思っていたのか、ひどく驚いていた。
努はいちかの前に歩み寄ると、腰を直角に曲げ、手を差し出した。
「好きです! 俺と付き合って下さい!」
「……」
いちかは努の手をジッと見つめる。
やがて状況を把握すると「いいよ」と軽く返した。
「へっ?!」
あまりにも呆気ないOKに、努は目を丸くする。冗談で承諾したのかもしれないと、いちかの顔を確認したが、彼女の顔は真剣そのものだった。
「や、やった。ばんざーい……」
努は顔を上げると、ぎこちなく笑い、軽く万歳した。まだ実感がわいていないせいか、感情が追いつかなかった。
するといちかは「ただし、」と続けて言った。
「た、ただし?」
途端に努は硬直する。一体どんな条件をつけられるのかと固唾を呑んだ。
いちかは表情を一切変えることなく告げた。
「ただし……夏休み限定で」
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