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2,
「な、夏休み限定?!」
「そう。夏休み限定」
いちかは頷き、淡々と言った。
「正直言うと私、君のことなんとも思ってないのよ」
「ぐはっ!」
努は心臓に矢が刺さったかと思った。太くて強靭な矢は、努のなけなしのメンタルを砕くには十分だったが、いちかは続けて第二、第三の矢を放った。
「なんとも思ってない人と急に恋人同士になるなんて、絶対無理」
「うぐっ!」
「友達ですらないし」
「げほっ!」
「そもそも名前も知らないし」
「そんなっ!」
努は泣きたくなった。告白は成功したはずなのに、「来なきゃ良かった」と後悔に苛まれた。二年間同じクラスだったのに名前を知られてなかったのは、純粋にショックだった。
「だから、夏休み限定にしましょう。本当なら友達から始めて、時間をかけてお互いを知っていった方がいいんでしょうけど、私には時間がないから」
「も、もしかして引っ越すの?」
「そうじゃないけど……そんな感じ」
いちかは努が声をかける前と同じように、物憂げに目を伏せた。何か話せない事情があるのかもしれない。
努はそれ以上は追求せず、頷いた。
「分かった。短い間だけど、よろしく」
しかし、努はこの恋を夏休みで終わらせるつもりはなかった。
(……これは一夏さんがくれた、最後のチャンスだ。この夏休みで、絶対に一夏さんに彼氏だって認めてもらうぞ!)
努は密かにそう意気込み、自身を鼓舞した。
「そうだ! 明日は何か予定ある? 暇なら、一緒にどこか行かない?」
さっそく一夏をデートに誘った。
普段の努はこれといって取り柄のない内気な男子だったが、いちかと付き合うためならなりふり構っていられなかった。
すると、いちかは即答した。
「無理」
「え」
「忙しい」
「い、忙しいって、何か用事があるの?」
いちかは頷き、意外な用事を答えた。
「断捨離しなきゃいけないから」
「へっ?」
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