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3,
翌日、夏休み初日。努はいちかの家を訪れていた。
「付き合って初日から会わないのはマズい」と考え、断捨離の手伝いを申し出たのだ。
「重い物運んだり掃除したりするからさ!」
「業者に頼むから、間に合ってる。それより、他に手伝って欲しいことがあるの」
いちかの家は住宅街の一角にある一軒家だった。水色の三角屋根が可愛らしい。
ドキドキしながらインターホンを押すと、「はーい」と家の中から声が聞こえた。ドタドタと足音が近づき、玄関のドアが開いた。出て来たのは割腹のいい女の人だった。
「どちら様?」
「あ、俺、一夏……いちかさんとお付き合いしている葉月努と申します! いちかさんの断捨離を手伝いに来ました!」
「まぁ! いちかの彼氏? どうぞ、入って入って」
いちかの母親だというその女の人は嬉しそうに顔をほころばせ、努を家に招いた。そのまま階段を上り、二階にあるいちかの部屋へ案内される。
いちかの部屋はドアが開けっ放しで、廊下には大量の家具が出されていた。部屋の中も物が乱雑に置かれ、足の踏み場もない。
いちかはそんな有様の部屋の中央にしゃがみ、雑誌をめくっていた。
「いちか、彼氏の努君が来てくれたわよ」
「ん。入って」
いちかは雑誌に視線を落としたまま、努を手招きした。
「お、お邪魔します」
努は緊張で全身を硬らせ、恐る恐るいちかの元へ近づいていった。想像していた部屋とはまるっきり違ったが、いちかの部屋というだけで、ドキドキした。
「それじゃ、私はお茶を持って来るわね。努君、ゆっくりしていって」
「は、はい!」
いちかの母は嬉しそうに「うふふ」と笑い、階段を下りていった。
「そこにある服、」
「服?」
いちかはクローゼットの前に山積みになっている大量の服を指差した。
「君が選んで。一週間分、七枚。あとは捨てるから」
「えっ、俺が選んでいいの?」
いちかは頷いた。
「付き合ってる間、君が好きな服を着てあげる。私が選ぶと、Tシャツと短パンばっかになっちゃうから」
いちかの言う通り、今日の彼女は黄色い無地のTシャツにジーンズ素材の短パンを履いていた。いつものいちかとは違う、活発的な格好だ。
努は「今日みたいな一夏さんも好きだな」と密かに思った。
「それなら任せて! 一夏さんが着ないような服を選ぶから!」
努はやる気満々で服をあさり、残す服を選ぶ。しかしどれも似たような服な上に、スカートがほとんどなかった。
努は悩んだ末、いちかに尋ねた。
「ねぇ、断捨離が終わったら暇?」
「まぁ、一応」
「じゃあさ、一緒に来てくれない? 行きたい場所があるんだ」
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