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 ショッピングモールからいちかの部屋まで服を運んだ頃には、夕方になっていた。 「これ、服の代金」  帰り際、いちかから万札を何枚か渡された。実際の服の代金の倍近くあった。 「いいよ、俺からのプレゼント」 「知り合って二日しか経ってない相手からのプレゼントなんて、信用できないわ」 「ぐはっ、ごもっともです」  同級生である以上、本当はもっと前から知り合っているはずだが、いちかは努のことを気にも留めていなかったらしい。  いちかの何気ない一言は、努のメンタルを簡単に打ち砕いた。だが、この程度で諦める努ではなかった。 「じゃあ、お金はいらないから、またデートしてくれない? 来週夏祭りあるからさ」  するといちかはあからさまに顔をしかめた。 「人混みは苦手。あと、浴衣持ってないし」 「大丈夫だよ、俺がついてるから。それに、浴衣ならある」  努はいちかに渡した袋を指差した。  いちかが中を確認すると、先ほど服を購入した店の向かいにあった浴衣専門店の紙袋が入っていた。中には金魚柄の浴衣と帯一式が揃っていた。 「……いつの間に」 「君がトイレに行ってる間に、ね」  努はニッコリと笑う。  いちかは騙された苛立ちでむっとしたが、すぐに表情を和らげ、困った様子で眉をひそめた。 「仕方ないわね。でも、文句言わないでよ」  夏祭り当日、努はいちかが行っていた「文句」の意味が分かった。 「一夏さん、大丈夫?」 「うん……ちょっと落ち着いたみたい」  いちかは人でごった返す中を数歩進んだところで青ざめ、そのまま努に寄りかかるように倒れた。  努は慌てていちかを祭り会場から待避させ、ひと気の少ない公園のベンチへ座らせた。  近くの自動販売機でお茶購入し、いちかに渡す。いちかはお茶をゆっくり飲み、半分ほど飲み干したところでようやく落ち着いた。 「私、狭くて人が密集してるとこ、ダメなの。このまま押し潰されちゃうんじゃないかって思うと、気持ち悪くなっちゃって」 「もう帰ろうか? これからもっと人が増えるだろうし、今のうちに帰った方がいいと思う」 「そうする。でも、わたあめだけ買ってきてくれる? あれ、大好物なの」 「分かった。ちょっと待ってて」  努は急いで祭り会場に戻り、わたあめを買って戻ってきた。しかしいちかはベンチから姿を消していた。 「一夏さん?」 「えいっ」  次の瞬間、努は首の後ろに冷えた缶コーヒーを当てたれた。反射的に飛び退く。振り返ると、いちかがしたり顔で立っていた。 「お疲れ様。コーヒーいる?」 「あ、ありがとう」  努はいちかから缶コーヒーを受け取った。  彼女の手はひどく冷えていた。努は「きっと缶コーヒーをずっと手に持っていたんだろう。なんて健気なんだ」と思った。
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