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 いちかは校舎の屋上から身を投げ出し、命を落とした。努にメールを送ってすぐのことだった。  思えば最初に会った時も、いちかは屋上にいた。あの時には既に、屋上から飛び降りることを考えていたのではないか、あるいは身を投げようとしていたのではないかと努は思った。  努は保健室で目を覚ますと、その足でいちかの家へ走った。  いちかの母は憔悴し切った様子だったが、快く努を家に上げた。 「いちかは不治の病だったの。治らない病気のためにお金を払うなんて馬鹿げてる、そんなことのために使って欲しくないっていつも言ってたわ」  そう言うと、いちかの母は努に一冊の日記帳を渡した。いちかの日記帳だった。 「読んで。あの子のこと、少しでも分かるかもしれないわ」 「拝見します」  努は日記帳を受け取り、開いた。  序盤は病気のことばかり書いてあった。病気のせいでまともに学校へ行けないことに憤っている日もあれば、ノート一面に「死にたい」と埋め尽くされていた日もあった。  しかしある時を境に、一切病気のことが書かれなくなった。努が告白した日からだった。 『七月◯日 知らない男子から告白された。せっかく今日で終わらせようと思ってたのに。私を止めたからには、責任取ってもらわないと。明日、断捨離の手伝いをさせることにした。』 『七月●日 例の男子に服を選ばせたら「僕の趣味じゃない」とデパートに連れて行かれ、ワンピースだのフリフリのスカートだのをプレゼントされた。こういう服は着たことがないので小っ恥ずかしい。しかも私がトイレに行ってる間に浴衣まで買ってた。準備がいい。』 『八月◯日 例の男子と夏祭りに行った。数年振りに浴衣を着た。結構可愛かった。でも、行ってすぐに帰ることになった。私のせいだ。なのに、彼は文句一つ言わず、私を気づかってくれた。人を好きになっただけで、ここまで優しくなれるのだろうか?』  その後も、いちかは努との日々を一も欠かさず日記に記していた。  遊園地は人が多いので代わりに公園で遊んだこと、図書館で一冊の本を一緒に読んだこと、植物園に行って努がミツバチにビビりまくっていたこと、カラオケで努が音痴だと発覚したこと、いちかの家でカキ氷を作って努がお腹を壊したこと……。  後半になるにつれ、努の呼び名は「例の男子」から「葉月くん」に変わり、努のことが必ず日記に書かれるようになっていった。いちかもまた、努を信頼し、努との日々を楽しんでいた。  しかし、夏休み最後の日記だけは、これまでと違っていた。 『八月三十一日 今日は夏休み最終日。明日からは学校……でも、行きたくない。周りの子達を見ていると、虚しくなるから。最後だから葉月くんと思い切り遊びたかったのに、結局宿題をして終わっちゃった。ありがた迷惑だと思った。彼は私のことを気づかって、一緒に宿題をしてくれたのに。一瞬でもそう思った自分が許せない。もう学校に行きたくない。』
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