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「いちか……」  努は今までの自分の愚かさに打ちひしがれた。いちかはこんなにも悩んでいたのに、自分はいちかと付き合うことばかり考えていた。  何故もっと早く気づいてあげられなかったのだろう? 夏休み最後の日の彼女は、明らかに普段の彼女とは違っていた。今まで彼女から「遊びに行こう」なんて誘ってきたことはなかった。  宿題なんてどうでも良かった。最後の日くらい、パーっと遊んだって良かった。一緒に始業式で担任に叱られて、放課後に居残って宿題をやって、一緒に手をつないで下校して、それから、それから……。 「うっ、ぐぅぅ……」  努の脳内に、あり得たはずの未来が駆け巡る。気づけば努の目から大粒の涙が止めどなくこぼれ、彼はうめくように泣いていた。  いちかの母も努が泣く姿を見て、ハンカチで目元を押さえる。 「ありがとうね、葉月くん。いちかのために泣いてくれて」 「いいえ……俺は、何も……」  努はいちかの母と共にしばらく、最愛の人を想って泣いた。  ひとしきり泣き、落ち着きを取り戻した頃、ふと努は日記帳の最後のページが破かれていることに気づいた。  カッターか何かで綺麗に切り取られており、よく目を凝らさなければ気づかないほどだった。 「あの、いちかさんの部屋に行ってもいいですか?」 「えぇ、どうぞ」  努はいちかの母を置いて、一人でいちかの部屋へ向かった。  いちかの部屋はテーブル代わりのダンボールと布団があるだけで、閑散としていた。ゴミ箱すらない。  努は日記帳から切り取られたページを探し、部屋をくまなく探した。  するとダンボールの中から丸められた紙が出てきた。日記帳から切り取られたページだった。  努は丸められた紙を拾い上げ、丁寧に広げた。そこにはこう書かれていた。 『私の彼氏くんへ。君がこの日記帳を読んでいる頃、私はもうこの世にいないでしょう。葉月くんは、私が死んだのは自分のせいだと後悔してるかもしれない。けど、それは違うよ。こうしようって決めたのは私なんだから。むしろ、君にはすごく感謝してる。君と出会わなければ、こんなたくさんの思い出は得られなかった。今まで本当にありがとう。たまには私のこと、思い出してね。大好きだよ。君の彼女より』  努は迷った末に、紙をポケットに仕舞った。  彼女の本当の最期の言葉を、他の誰にも見せたくなかった。たとえ彼女の親であろうとも。
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