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「まだ三十路過ぎでしょ? 若いのにかわいそうに」
「仕事熱心だった分、独り身だったのね。ご両親の悲しみ様が痛ましくて見てられないわ」
「転職組なのに出世して大抜擢だったみたいよ。でも、その異動先の社屋の前で事故に巻き込まれるなんて」
「仕事にはやりがいがあって生き生きしてたってね。帰りを待つ家族もなくて、終電近くまで働いていたばっかりに、深夜の飲酒運転の車に行き当たっちゃったんだよ」
「できる男の末路がこのザマだと思うと、不謹慎だけど、俺なんか平社員でよかったって思っちゃうな」
僕の葬儀に参列してくれた友人や同僚たちの会話が、僕の脳裏に見る見るあふれていく。
うわあっと叫んだ僕は、やみくもに走った。息が切れるまで脇目も降らず駆け抜けて、気付けばいつもの駅前だった。
惹きつける力の強い長編映画を一本見終えた後のような動悸が、生々しく胸に残っている。
体験したばかりの出来事の意味を理解する間もなく、心臓の鼓動に覆いかぶさるように、胸元のポケットでピロンっとスマホが短く鳴った。
何も考えられず反射的に画面を覗くと、今しがた受信した由希子からのメッセージが表示されていた。
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