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そんな日中の仕事をどうにかこなして家に帰りついてからも、由希子の調子のいいお願いに振り回されっぱなし。
思い返せば、結婚前のデートでも由希子はだいたい遅れて待ち合わせ場所に現れた。待ち合わせ1分前になって「ごめん、5分遅れます」という連絡が来るのも毎度のことだった。
次から5分早く準備を始めればいいのではと思うのだが、改善されることはついぞなかった。
結婚して同じ家に住めば、彼女の遅刻に悩まされることもなくなるだろうと楽観視したが、それでは甘かった。
「すぐ夕食できるよ。熱々のうちに食べてほしいから座ってて」という指示に従った次の瞬間には、「お肉にあわせるソース作ってなかった! ごめんあと5分」と言われ、お預けをくらう。
風呂に入ろうと裸になったら、「先に鍋を洗っちゃいたいから、あと5分待って」という声が、台所から飛んでくる。
鍋の油汚れを落とすため由希子がお湯を使っている間は、風呂場でお湯が出てこないのだから待機するしかない。裸のままの5分は、なかなかの屈辱だ。
世の中は「ワークライフバランス」という言葉が注目されているけれど、僕の場合は、ワークもライフも同じぐらい良い勝負の、なあなあのバランスで固まってしまっている。
バランスが取れていればいいというのではない。大事なのは、仕事も家庭もメリハリをつけて、効率よく生きることのはずなのに。
伸びに伸びた無記録の残業時間、妻に浪費されていく貴重な余暇のひと時。小出しにしては膨らんでいく僕の善意の総体は、1日24時間から抜け落ちてどこへ逃げていくのだろう。
僕が僕のために使うはずだった時間、僕に生きられなかった時間の行く末は。
どこかに、僕の人生のロスタイムをまとめて捨ててある埋め立て地があるに違いない。
そんな茶番めいたことを考えつつ、今年の記念日はつつがなく終わっていった。
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