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(由良side)
“とんとんとん”、という心地よい規則的なリズムで、あるいはスープやバターの優しい香りで目を覚ます。
幹斗君と同棲を始めて1ヶ月。平日朝のこの光景には、いつも嬉し泣きしそうになる。
“家賃を由良さんが払うのならせめて家事は自分がする。そうじゃなきゃ暮らせない。”、と幹斗君が言ったから、普段は幹斗君が、プレイや行為をした次の日は僕が朝食を作ることで折り合いがついた。
夕飯は早く帰ってきた方が作ると決めたが、基本的に幹斗君が早く帰るから、彼が作ることが多い。
申し訳ないと思いつつも幹斗君の料理の方が美味しいので、僕は感謝を込めて掃除や洗濯をして、幹斗君に微妙な顔をされる(たまに自分の仕事を奪わないでほしいとむっとされる)。
「おはよう、幹斗君。」
彼が火を止めるのを待ってから後ろから抱きしめると、幹斗君の肩がぴくりと跳ねた。
「ゆ、由良さんっ、おはようございます。」
頬を染めて振り返った彼は、僕の姿を確認して視線を泳がせながら言う。
白いシャツに黒いエプロンがよく似合っている。そしていつまでたってもうぶな反応が本当に愛おしい。
こんなに綺麗で愛らしい存在が自分のパートナーだなんて、夢のようだと思うけれど、首元のcollarと薬指のリングが彼を僕のものだと証明してくれるから安心できる。
「…あの、その…。」
しばらく前から抱きしめていると、幹斗君が気まずそうに静寂を破った。
「ああごめん、君があまりにも可愛らしくて、つい。」
…いけない。ついしみじみとしてしまった。
名残惜しさを覚えつつも彼の身体から手を離す。
しかしその場から立ち去ろうとした僕の袖をぎゅっと引いて、幹斗君が上目遣いにこちらを見つめてきた。
「…ちがくて…その、…キス、しない…?」
大きく開いた檜皮色の瞳は、恥ずかしさのせいか潤んでいる。
もしこれが休日の朝だったら、お姫様抱っこでベッドまで連れて行って前夜の延長戦をするだろうし、正直今だってこれから彼が大学に行くのを鎖でつないで止めてしまいたい。
そんな欲望を押し殺して、甘いglareを注ぎ、薄い唇に自分のそれを重ねる。
朝だから激しくしすぎないように、でも僕を煽った責任は感じてもらえるように、少しだけ中をかき回すと、彼は思った以上に顔を真っ赤にしてわずかに太腿をすり合わせた。
「…おにぎりの具、なににしますか…?」
雰囲気を誤魔化すように視線を泳がせながら彼が紡ぐ。
声が震えていてもう少し意地悪をしたくなったけれど、そろそろ時間が迫っているからそれはまた後で。
「幹斗君と同じのがいいな。」
「いつもそれっ…!梅と鮭とたらこから選んでください。」
「じゃあ鮭。」
「承知です。」
ふふっとくすぐったそうに笑みを溢す唇を見ていたら、また口付けたくなってしまった。
支度を終え、ドアを開けた先には、五月晴れの空が広がっていた。
「行こうか。」
「はい。」
同じ家で寝て、起きて、時間が合う時は2人で家を出て途中までの道を共に歩む。
幸せだな、とおもう。
例えば、幸せがどんな色かを聞かれたのなら、彼と見る景色の色全てだと答えるくらいには。
幹斗君と出会うまでも出会ってからも、自分がここまで幸せにしてもらえるなんて考えられなかった。
だから、例え僕たちの関係がどうであったとしても、お互いに唯一無二で愛し合えるのなら、それ以上の幸せを僕はもういらない。
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