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(幹斗side)
「…というわけで、今日の授業はここまで。課題は来週までにA4の用紙に書いて提出するように。」
チャイムが鳴ると、白い数式が敷き詰められた緑色の黒板を置いて、教授は教室を出ていった。
大学院でも一年生は基本的に授業が多い。…というより、一年のうちに授業をとっておかないと就職活動と卒業研究で大変なことになる。
「幹斗、お昼一緒に食べない?」
俺が黒板を写し終わるのを待ってから、隣で授業を受けていた東弥が誘ってくれた。
流石に研究室は違うが東弥とは専攻が同じで、とっている授業も被っている。
正直こういう研究室外の人と話す機会は有難い。研究室にいると教授や研究室の人間としか接することがないから病みそうになる。
「うん。次の授業の教室でいい?」
「おっけー。その前にコンビニ寄っていい?」
「うん。」
コンビニで東弥が食事を買っている間、俺は中に入らずにスマホを開き、わくわくしながら由良さんとのLINEを開いた。
“今日もご馳走様でした。卵焼きに桜海老が入っていておいしかったよ。”
チャットには一件のメッセージ。
彼にお弁当を渡すと必ず感想をくれる。
俺はそれにどういたしましてのスタンプを返すだけだが、本当はすごく嬉しくて何度も見返してしまうのだ。
「お待たせ。」
右手にレジ袋を抱えた東弥がコンビニから出てきたと同時に、周りの女子の視線がこちらを向くのを感じる。
相変わらずのイケメンである彼は、ただいるだけで不思議と女子の目を引く。3年間一緒にいてこれはもう慣れた。
「最近由良さんとはどう?」
「仲良く暮らしてるよ。東弥は?」
「…静留が可愛すぎて毎朝家を出る時が不安すぎる…。」
…でも俺と出会ったときとはだいぶ中身が変わったな…。
そう思ったことは心の中に留めておいた。
東弥には静留という可愛らしいパートナーがいるのだが、彼のこととなると東弥は途端に残念になる。
例えば静留と外に出るとずっと手を繋いで離さないし、静留と食事をするときは熱いものを吹いて冷ましたり水をテーブルの中央に置いたりととても一個下の男性に対するものとは思えない振る舞いをするのだ。
ちなみに静留もそれを喜んで受け入れているので、周りは何も突っ込まない。
「可愛いもんね。静留君。」
「うん。俺が帰ると玄関まで駆けつけてきて抱きついてくるし、夜ベッドの上で甘えてこられると抱き潰しちゃいそうで困る…。」
「あはは…。」
しかもこれを普通に口に出してしまうのだから困り物である。
4年生の頃までは谷津がいたからかすんでいたが、今思えば東弥も大概ひどい。
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