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(幹斗side) 「ごめんね、幹斗君、…何もできなくて、…でも君をもう離せなくて、ごめんね…。」 由良さんの涙を見て、今まで朦朧としていた意識が急にはっきりした。 …あれ、そういえば俺… …そうだ、御坂に暴行(プレイ)された次の朝から、話すことができなくなったんだっけ…。 なぜ話すことができなかったのか。 それは、あの夜俺が眠った後に気づいた、ある恐ろしい事実のせいだった。 本当は暴行された夜に、由良さんの言葉のおかげで一度は俺の中で気持ちに決着がついていた。 壊れたように謝って意識を失ったあと、ふと目を覚ました瞬間が、一番幸せだったのだと思う。ぐっすり眠りながら俺を抱きしめる由良さんの横顔が愛しくて、その頬に口付けてお帰りなさいと微笑んだ、その瞬間が。 けれどそのあとすぐに思ったのだ。 “タイミングが良すぎる”、と。 そして連鎖的に御坂が最後に放った最後の言葉を思い出して。 “ここまですればいいだろう。” あの言葉の意味がなんだったのだろうと考えたとき、急な寒気が押し寄せてきた。 そういえば御坂は由良さんと同じ会社に勤めていたはずで。 はっとして、起こさないように由良さんの横を抜け出し、引き出しにしまったまま存在を忘れていた名刺を取り出した。 そこにはやはり由良さんと同じ会社の社名が書かれていた。 念のためネットで彼の本名を引いてみると、彼が由良さんの直属の部下であることがわかった。 由良さんが部長で、御坂が課長。その事実が何か引っかかって、もう少し調べると彼のSNSのアカウントにたどり着いた。 “御坂理人@社長子息”。本名でやっているなんて馬鹿だ、というツッコミはひとまず置いておき、社長子息、という言葉に怯えを感じながらも彼のアカウントをクリックして。 そして一番上の投稿を見たときに、さらに嫌な予感がした。 “ああ、すっきりした。むかつく奴の大切なものを壊すのって最高に気持ちいいわ。男とか無理かもって思ってたけど、加減気にせず痛めつけられるし、顔きれいなら全然あり。” 震える手で投稿を遡っていくと、その嫌な予感はどんどん大きくなっていった。 “宝物の後輩に接触成功。仲良くなった後輩に落とされるとか最高に滾るよな。” “あいつの宝物に接触成功。綺麗な顔してたから、あいつに捨てられたら俺が可愛がってやってもいいかな。” “あいつまじでむかつくんだよ。みんななんであいつばっか頼るんだ。父さんも父さんだ。なんであんな奴の下に俺をおくんだ。俺のが上だ。” 漠然とした恐怖がどんどん確信に変わるとともに、泣きたい気持ちになった。 御坂は多分、由良さんが嫌いで、けれど由良さんはみんなから信頼が厚くて、だから由良さんが一番傷つく方法を探していたのだろう。 そこで念入りな計画とともに俺を傷つけることを決めた…。どこで接触したのかは知らないが、仙波君ともその過程で手を組んで。 俺は由良さんが大好きで、もしも無人島に何かひとつ持っていけるならば迷わず由良さんを選ぶし、由良さんがいれば他に何もいらないと思うことすらある。 由良さんだって多分、俺のことが大好きだ。もう離したりしないと約束してくれた。 帰ったあと俺を抱きしめ何度も繰り返された“愛してる”と“離さない”の言葉だって、俺は信じていた。…信じていた、けれど。 それと同時に、由良さんに一度collarを切られた記憶が蘇ってきた。
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