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由良さんは、あのとき俺のためを思って手を放そうとしたのだ。今回俺が傷ついた原因が由良さんへの当て付けだと知ったら、また俺の手を離してしまうかもしれない。
そんな不安からか、酷い悪夢を見た。
朝起きたらcollarがなくなっていて、由良さんが隣にいない。そんな夢。
それでも由良さんが目を覚ましたら彼に全てことの顛末を話すつもりだった。
なのに朝起きてcollarが外されていることに気づいた瞬間パニックになって、由良さんに手放されるくらいならば説明する手段ごとなくなってしまえばいいのにと思ったら、声が全く出なくなって。
そこからの記憶は少し朦朧としている。
ただ、ひたすらに由良さんの優しさによって温かく包まれていた気がする。
離れるのが怖くてずっとしがみつく俺に、何も咎めず寄り添ってくれた。
夜に深いつながりを求めればそれに応じてくれ、朝鏡を見ると首にかけられた縄の痕よりも彼からの愛の印がずっと多く目に入って、自分の身体を好きでいられる。
そんな優しい時間の中で時折、本当のことを話せないことがその優しさを裏切っている気がして、罪悪感が涙として流れ出した。
けれど、今彼が泣いているのを見て、急に我に帰りこのままではいけないと思った。
笑っている彼が好きだ。
彼の紫紺の瞳が優しく細められ、綺麗な唇が緩く弧を描く、そんな少し儚げで幸せそうな笑顔が。
彼が俺と一緒にいたって、幸せじゃなければ意味がない。
もしも俺の臆病のせいで彼が傷つくならば、それは嫌だなと思った。
それに、俺を離せないと言ってくれたその言葉を信じて、そろそろ俺も歩き出すべきなのではないだろうか。
そう思ったら、やっと口から言葉を吐くことができた。
「…ゆらさんは、わるくない… 」
彼がハッとしたように大きく目を開いてこちらを見る。
…怖い。全部言うのは、怖い。
でも由良さんが涙を流すくらいなら、そんな気持ちは関係ない。
由良さん、俺を離さないでいてくれますか。もし貴方が寄り添ってくれるのなら、どんなに深い傷を刻まれても、俺はずっと笑っていられるから。
「…お願い、全部話すから、離さないで…。」
由良さんにすがるように抱きついて、次の言葉を続ける。
すると夜明けを写しとったような藍の瞳が優しく細められて、薄い唇が淡く笑んだ。
「約束する。離さない。もし何があったとしても、…僕はもう君を離せない。」
大好きな笑顔が嬉しくて、ずっと180度以上上がらないまま固まっていた口角がふっと緩む。
「やっと笑ってくれた。」
嬉しそうに由良さんが言うとともに、淡雪みたいな優しいキスが降ってきて、しばらく俺はそれに溺れた。
幸せすぎて泣きそうになる。
…この口づけが終わったら、全て話そう。
由良さんは一つも悪くないのだから、もしそれで彼が俺を手放そうとしたとしても、また一から俺が迎えにいけばいい。
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