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「…最初仲が悪かった後輩が、最近仲良くしてくれて…、それであの日、ご飯に誘ってくれたんです…。それも今考えればおかしかったけど、俺は気付かなくって…。 ついて行ったらホテルの前にこの人がいました。…それで、2人がかりで中に連れ込まれて、最初訳が分からなくて、抵抗出来なくて…。それでも部屋の前で抵抗したけど、glareで止められて…。 あと、実は前、由良さんの会社の近くでglareを放ってきたのも、この人だった…。」 つっかえつっかえ話す俺の言葉を由良さんは唇を硬く結びながらも静かに聞いてくれたけれど、御坂の名刺を示した途端に彼の表情が強張ったのがわかった。 由良さんは俺が話し終わると何も言わずにしばらく唇を噛んでから、そっか、とひどく優しい声で言いながら俺の頭を撫でて。 「…なんとなくわかったよ。幹斗君が不安がってた理由。」 苦しげに紡がれたその言葉の続きを、俺はじっと待った。 彼の瞳がぐらりと揺れて、薄い唇がゆっくりと開く。 その表情の儚さが何を意味するのかが怖くて、拳をぎゅっと握りしめた。 「僕のせいで辛い思いをさせてしまって、本当にごめんね。でも、君がこれから笑えるように、また安心して外に出られるように最大限の努力をするから、 …勝手だけれど、君のそばにいさせて。愛しているよ、幹斗。」 …よかった。由良さんと一緒にいられる…。 安心したら涙が溢れて、安心以外にも色々な感情が湧き出して、止まらなくなった。 全部怖かった。由良さん以外にされる行為(プレイ)精神(こころ)も身体も拒んで、どんなに抵抗しても喜ばれるだけで、首に縄をかけられ引っ張られた時、自分は殺されるのではないかとすら考えた。 でも、 「うぅっ…俺っ…、ゆらさんといられない、のが、…一番こわかっ、た… 」 子供みたいに泣きじゃる俺のことを、由良さんは包み込むように柔らかく抱きしめてくれる。 「うん、そんなふうに苦しませてしまってごめん。ずっと一緒にいるからね。」 「…しんじられなく、て、ごめ、なさっ… 」 「君は何も悪くない。話してくれてありがとう。」 そして俺のどんなに否定的な言葉も、全部優しくしてくれた。 「ありがとっ…、…ござい、ます… 」 その言葉以上に適切な言葉が見つからない。 彼はふわりと俺に微笑みかけ、手を握って甘いglareを注いでくれた。 …由良さんのglare、気持ちいい…。 「ちゃんと手順を踏んで、もう御坂が君に接触できないようにする。だからそれは少し待っていて。 他に何か、今僕にできることはない?」 由良さんは俺に甘すぎると思う。 誰かにプレイされバッドトリップして帰ってきた俺を、無条件に信じて愛していると言ってくれた。 何も話せなくなった俺にずっと寄り添ってくれて、俺の不安を理解して、優しい言葉で包み込んで無くしてくれた。 今、俺がしたいこと…。 「由良さんがしたいことがしたいです。」 下からじっと彼の顔を見上げて言うと、彼は一度驚いたように目を瞬かせてからまた優しい笑みを浮かべる。 しかしそれから背筋が震えるほど熱っぽい視線で俺を見た。 「…君を抱きたい…。」 凛とした低い声が鼓膜を震わせる。 俺はその声に何も言わずうなずいた。 俺もそれがしたい。 抱きたいと言われて初めて自分が彼にそうされたいと望んでいたことに気がつき驚いた。 自分すら気づかなかった心の内側を由良さんだけが理解してくれたのかもしれない、なんて言ったら、買いかぶり過ぎだって笑われてしまうかな。 …由良さんが笑ってくれるなら、それもいいか。
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