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(由良side) 「由良さん、行ってらっしゃい。お仕事応援してます。」 玄関口でそう言った幹斗君の表情は少し寂しげだったけれど、僕がいなくなることについて怯えた様子は見られなかった。 「うん、行ってきます。何かあったらすぐに連絡してね。」 言いながら額に口付けると、白い頬がほの赤く染まる。 そのまま手を振ってドアを閉め、久しぶりの外に出た。 空は綺麗な水色で、夏らしく積乱雲が向こう側に浮かんでいる。 階段を降りた先で小さくため息をついた。 幹斗君が全てを話してくれたことへの安心と彼を守れなかった不甲斐なさがごちゃ混ぜになって、正直まだ混乱している。 もっと早くに御坂の名前を聞いていれば、出張になんて行かなかった。 それどころか幹斗君に一人で外を歩かせなかったし、家の中以外では盗聴器を持たせて常にオンにしておくよう指示していたと思う。 昨夜幹斗君が眠ったあとは、思っても見なかった告白を反芻してそうやって何度も自分を責めた。 でも、それは“もしそうだったなら”。仮定法過去で考えたって起きてしまった今となってはなんの解決にもならない。 だから今から、今できることをする。 「秋月さん、おはようございます。」 大学内のカフェの前に行くと、待ち合わせの相手がすでにそこに来ていた。 「おはよう、東弥君。平日なのに呼び出してごめんね。」 「…いえ。俺も相当腹が立ってるんで。」 東弥君はそう言って口角を柔らかく持ち上げる。 口では笑っているが、目が全く笑っていない。 昨夜幹斗君から事情を聞いた時に東弥君の助けが必要だと感じ彼に連絡を入れたところ、彼はすぐに計画を立てて僕に今日会おうと言ってくれたのだ。 「それより秋月さんはお仕事大丈夫なんですか?」 「うん。一応一か月出張で出ていたから、もともと有給を消費するつもりだったんだ。…もしそうでなくてもあんな状態の幹斗君を1人にはしないけれどね。」 「そうだったんですね…。安心しました。幹斗の学校の方は俺がどうにかしておくので、ゆっくり来るように言ってください。あそこの教授とは仲がいいんです。」 「うん、ありがとう。心強いよ。…それで、あの子が幹斗君の言っていた後輩の子?」 人気(ひとけ)のないカフェの隅の方に座ってすました顔でコーヒーを飲んでいる人物を指差し、東弥君に尋ねる。 「はい。彼が仙波です。さっき幹斗の研究室に行って声をかけて連れてきました。」 「ありがとう。本当に助かったよ。」 「幹斗のためなんで。」 御坂は汚い人間で、彼を単体で落とすのは非常に難しい。 それに幹斗君が安心して大学に通うためにもその後輩の存在は遠ざけておくべきだろう。 まずは御坂に動向を悟られないように注意しながら、御坂と一緒に幹斗君に危害を加えた後輩と接触して、聞けるだけの事情を聞き出す。 それが最善の策だと判断した。
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