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「待たせてごめんね。」
近寄って東弥君が声をかけると、仙波は顔を上げ嬉しそうに笑う。
その様子を見ていると彼が幹斗君に危害を加えたとは到底思えない。
「いえ。真鍋先輩、お話できて光栄です。先輩のお噂はかねがね。4年生で学会の口頭発表で賞をとったとか。さすがです。やっぱりSランクのDomはすごいなぁ。」
しかし彼が最初に放った言葉により、幹斗君が雨の日に泣きそうになりながら話していた悩みを思い出した。
“後輩がDom至上主義で悩んでいる”、と。たしかそう言っていた気がする。
それなら納得がいく。そしてDom至上主義なんて身勝手な理由で彼を傷つけたのなら、本当に許せない。
「いやいや、小さな学会だったし、大したことないよ。」
東弥君は笑って受け答えするも、やはり目が笑っていなかった。
僕が東弥君と隣り合わせで彼の向かいに腰掛けると、仙波がこちらを見て顔をしかめる。
僕がDomだと気付いていないのかもしれない。
「…ところでその方は?」
「俺の知り合い。君に聞きたいことがあるんだって。」
東弥君の返答を聞いて、仙波は“ふーん”、と面白くなさそうに言いながら僕の方を仰いだ。
「なんでしょうか?俺に答えられる範囲なら答えますけど。」
東弥君に対する態度とは違い、かなり舐められているらしい。
「幹斗君に君がしたことについて聞きたい。」
苛立ちを噛み殺しながら努めて穏やかに尋ねると、彼はなぜか嘲笑うような笑みを浮かべた。
「…あー、風間先輩のお兄さんとかですかね?俺なんもしてないですけど、そもそもSubとか心配する必要あり… 」
…限界だ。
つい全ての言葉を聞く前にglareを放ってしまった。
彼が硬直し震える手でスマホを取り出す。
その様子を見て東弥君が立ち上がり、彼からスマホを奪い取った。
「誰に連絡しようとしてる?もしかして…あー、やっぱり。秋月さん、どうぞ。」
東弥君がこちらに渡してくれたスマホにはLINEのメッセージ画面が表示されている。
画面の上の方には御坂の名前が。
履歴を消すか御坂に連絡を取るかしようとしていたのかもしれない。
危なかった。
逃げようとする彼の動きを東弥君が止め、僕は彼をglareを放ちながら睨み付ける。
返してきたglareから察するに仙波のランクはAかB。Sランク2人のこちらの方が圧倒的に上手だ。やはり御坂より先にコンタクトを取ってよかった。
「全部吐け。もし俺のパートナーに同じことしてたらお前生きてないからね。秋月さんが優しくてよかったな。」
東弥君ががたがたと震える仙波の顎を掴み、追い討ちをかけるように容赦なくglareを注ぐ。
荒い口調と極限まで低い声が彼の怒りを露わにしていた。
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