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「由良さん、えっとそれ、…大きさが違います…。」 「えっ…?」 …なるほどそういうことだったのか。 謎が解けてスッキリする反面、ちょっと面白くて声が震えてしまった。 由良さんの料理はなぜかにんじんの大きさがバラバラで(ちなみに調理する前に人参を冷凍するのは既に注意したのでやらなくなった)、ずっとどうしてだろうと思っていたのだが、どうやら彼的には均一に切っているつもりだったらしい。 薄さは均一だが、細い部分も太い部分も同じように切るので、結果大きさが違ってしまうようだった。 「太いところは細かくして、細いところはそのまま…そうです。それで火の通りが均一になると思います。」 「なるほど。」 由良さんが感心したようにうんうんとうなずく。 どうして今まで気づかなかったのか、という突っ込みは心の中に留めておいた。 由良さんに抜けているところなんて滅多にないため、新鮮で嬉しい。むしろ由良さんの料理が完璧になってしまったらもう俺の立場がなくなってしまうから、料理の腕だけはこのままそこそこでいて欲しい。 「あの、野菜は俺が切るので、目玉焼きを焼いてください。」 「…卵を割ると確実に潰すから実は目玉焼きが作れないんだけど…。…幹斗君?」 …だから由良さんが作るのはいつもスクランブルエッグだったのか。 そういえば一緒に料理をしたのは初めてだった。あまりにも新発見が多くて、口を押さえて笑いを堪える。 普段完璧な彼の、意外なところ。知っているのが俺だけならいいな。 「す、すみませんっ…、あのっ、くくっ…、目にゴミがっ… !?」 「悪いのは僕だけと、嘘をつくのはよくないと思うな。」 拗ねた口調で言いながら由良さんが俺のことを不意打ちで抱きしめて、俺はその場で固まってしまう。 「笑った顔は貴重だから、よく見せて。」 「… 」 ふしばった長い指に上をむかされ、由良さんの瞳にじっと覗かれて、また顔が熱くなった。 多分もう俺は笑ってない。自分が今どんな顔をしているのか、考えただけで恥ずかしい。 …意地悪。…いや、悪いのは俺だ。俺だけど…。 「嘘ついてごめんなさい…。」 「うん、僕も料理が下手でごめんね。」 …そこで謝っちゃうようなところがますます好きにさせてくる。ずるい。 「由良さんの料理は上手じゃないままがいいです…。」 「えっ?…わ、噴いてる。」 「わーすみませんっ!!」 固まっていた間に鍋が吹きこぼれていて、慌てて火を止める。料理中だったことをすっかり忘れていた。 そんなこんなで一緒に作った料理は美味しくて、二人で食べると幸せで、でもあまりにもやらかしが多かったから、次からは一人で作ろうと心に誓った。
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