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最初こそ先生とどう接して良いのか 距離感を図りかねていた私が 馬鹿々々しく思えるくらい…… あの日を境に目に見えて先生は変わった。 かなり露骨に。 しかも……あくまで私の前でだけ。 化学室の前をウロウロしていると、 「邪魔、どいて」 背後の高い位置から声が降ってきた。 「あ、はい!スミマセ…… あ、なんだ先生か」 そして、私も。 邪魔って何ですか? 手ぶらじゃないですかとか言い返していると 向こうの方から男子生徒が こちらに走って来るのが見えた。 「ああ、これでしょう? 取りにくると思って待ってましたよ」 白衣のポケットからペンケースを差し出したかと思うと 先生はこれでもかという程ニッコリ笑う。 その生徒は ’ありがとうございます流石、三塚先生やさしい~’と 何度も頭を下げて帰っていった。 一連の行為を横目で見る私に 先程の生徒を笑顔で見据えたまま、 「何だ?」 と、ぶっきら棒な低音が。 「いえ、別に」 ただ無言で見ていただけなのに、 軽い?足蹴りが飛んできた。 「ハイ、確かに思いました。 騙されてるな、この人もって」 「…………帰れ」 どうやら私の前では“いい先生”を演じるのを やめたらしい。
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