239人が本棚に入れています
本棚に追加
実家を出て帰宅途中のこと。
それまで黙っていた先生が不意に立ち止まった。
「子供が出来たと聞かされた時、正直怖かった。
俺には普通が分からない。
どうすれば正解なのか知らないんだ」
「……うん」
「今度は俺が自分の子に自分がされたことを
繰り返しやしないかと……」
「…………うん」
街灯の下で照らされた先生は
まるで取り残された子供のように見えた。
「先生、心配しなくて良いのに。
そんなことになるわけないって、
だっていつも傍に私がいるでしょ、忘れちゃった?」
自分の不安も先生の恐怖も払拭するように
努めて明るく私は先生の背中を叩いた。
まだ起きてもいない未来に怯えたくない。
「……雨音」
「私は大好きな先生との子供が
今から生まれてくるのが待ち遠しいくらい。
男だったら先生に似て絶対カッコいいだろうし、
私に似たら……取り合えず元気だろうし、ね!」
「お前は……本当に強いな」
漸く穏やかな顔で
先生が少しだけ笑った気がした。
最初のコメントを投稿しよう!