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「何をですか?」 三塚が穏やかで微かに笑っての問いに 私は墓穴を掘ったことに気が付いた。 余計なこと言わずにさっさと逃げれば良いものを わざわざ…… 私が更に意識を迷走させていると 不意に真上から声が零れた。 「ふーん。そんな顔もするんですね、意外です」 「え?」 「月島さんって何時も僕を見る時、 醒めた目つきで見てるから こんなにクルクル表情が変わる イメージがありませんでしたよ」 (は??) 「大方ノートでも忘れたんでしょう? もうすぐ暗くなりますよ、気をつけて帰って下さい」 頭の上に置かれた手に私は動けなくなってしまった。 「大丈夫ですか?月島さん」 先生の声に弾かれて我に返る。 「ハ、ハイ!すぐ帰りますっ」 慌てて教室を飛び出すことで、 ようやく脱出に成功することが出来た。 何だったんだろう……あの感じ、不思議な感覚。 私は飛び出した背後に視線を感じながら 何故、走っているのか、 何故泣きそうになってるのか、 訳分からなくなってしまった。 ……この時の私は未だ何も、 本当に何も知らなくって 全てのベクトルが生み出す感情も痛みも罪すら、 何もかも。 そのまま全部知らずにいたら ……未来はどんな風に変わってたんだろう 今でも時々そう思うことがある。
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