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私はその日、放課後忘れたノートを取りに 化学教室に向かっていた。 本来なら明日でも良かったけど 試験があると分かった以上そう悠長にも言ってられなくて。 化学室に続く廊下は向かいの校舎の オレンジの光を浴びまるで異世界へ誘うかの如く 何処までも伸びていた。 この教室は校舎のはずれ辺りで普段から 授業が無いと生徒も近寄らない為、 放課後ともなると一段と静まりかえっている。 少し古びた音を立てて開いた教室の中に やっぱりというか人の気配は無く 夕日で実験器具等が乱反射してて 何だか幻想的で…… 不思議な空間は暫し目を奪れ 当初の目的だったノートを片手に 時を忘れて佇んでいた。 ガラッ 突然の扉の音にビックリして 咄嗟に机の影に隠れてしまった。 ……モチロン隠れる必要なんて無いんだけど。 ただ、人もいない時間にこんな場所にいる自分に 所在不明の不安感と後ろめたさがそうさせたのかもしれない。 で、結果…… 出るに出られない状況という訳なんだけど。 願わくば今入っってきた人物が一刻も早く この教室から出て行っていくれるのを望むばかり。 上履きではない靴音と……もう一人の足音。 「ねぇ、ちゃんと覚えてます?」 「ええ、勿論」 !! 二人とも聞き覚えのある声……これって 神谷と三塚? “神谷”(かみや)“神谷”といえば、 選択科目じゃないからあまり接点はないけど 美人系で男子からはやたら人気がある日本史の教師。 “三塚”(みつか)“三塚” 化学の顧問で……恐らくこの学校で一番の有名人。 その理由は―――
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