アウラ 記憶のないオオカミ

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アウラ 記憶のないオオカミ

 妙にお腹の辺りがあたたかくて、メルは目を覚ました。  自分の体の前に、犬のような動物がくっついて寝ている。 「うわっ!」  驚いて飛び起きても、その動物はピクリともしない。  状況が飲み込めないまま立ち上がると、貧血のように目の前がくらくらして、メルは両膝をついた。 「まだ、寝てなさい――」  目の前の動物が、顔も見せず丸まったままの姿で告げた。 「さっきのオオカミ?」 「そうよ、メル。あなたが助けた――」 「しゃ、しゃべってる!」  おろおろしているメルを見かねて、オオカミはゆっくりと端正なその顔を向けた。 「アウラ、なんで僕の名前を知ってるんだ……」  ん……数秒間固まりながら、メルはまた口を開いた。 「って、なんで僕は君の名前を知ってるんだ? なんで会話できてるんだよ~っ」 「ふふっ、なんでばっかり……でも、そうよね。よろしく、メ・ル」 「とりあえず、助けてくれたお礼は言うわ」  そう言って、アウラは立ち上がって頭を下げた。 「よく分からないけど、メルとアタシは……つながっている、みたいね」 「つながっている?」 「教えてもないのに、名前知ってたじゃない。話もできるし。それに、瀕死のアタシがここまで回復して、あなたはなぜか弱っている。そうじゃない?」 「……確かに、僕は君を助けようと思って……」  嘘のようにアウラの血が消えていることに気付いて、メルはつぶやいた。 「血が……傷がふさがったのか……」  信じられないという表情のメルを見て、アウラが続けた。 「アタシにも分からない。何かに襲われて……でも記憶が……ないの」  二人はしばらく黙ったままだった。  どこかで、聞き覚えのある小鳥が静かに鳴いていた。
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