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姿を隠すには十分な深さまで潜ったサメの背に、いつの間にか男が立っていた。
「思ったよりも歯応えがありそうな連中だな。俺の名は、シャグランだ。今日は獲物がいっぱいだぜ、ティブロン。遠慮なくやっちまえ――」
「うまそうなのがいっぱいだァ」
ティブロン、そう呼ばれた人食いザメは、水も陸も気にせず縦横無尽に動き回る。
シャグランも、信じられない身体能力で、サメの背に立ち続けていた。
バズとアウラが、子どもたちを安全な場所へ避難させて戻ってくる。
(むリむリむリ、あソこマでイけナいッてバ)
その間にメルは、次の矢をシャグラン目がけて放っていた。
それに気付いて水中に飛び込んだシャグランは、次の獲物を見つけて狂喜する。
「ティブロン、行くぞ。舟で来るとはいい度胸だ。死にに来たようなもんだからな!」
フロールたちの乗った無防備な舟が、こちらへ向かって近付いてきていた。
「まずい――舟が狙われる!」
「泳いで行くしかない。助けるんだ!」
バズとメルは、迷わず湖へ入った。
「ストラール、お願い――二人を――みんなを、守って!」
「ワシに任せとけー」
アウラは、激しさを増す波の行方を、ただ見つめるしかなかった。
シャグランとティブロンは、バズとメルが湖に飛び込んだのを確かめて、不敵な笑みを浮かべた。
二人は、この瞬間を待っていたのだ。
「地獄を見せてやるぜ」
「馬鹿なやつらだァ」
ティブロンの背に立ったシャグランが、大きくジャンプする。
それを合図に、ティブロンは体を反転させ、尾びれで湖面を薙ぎ払った。
瞬く間にその前方が凍り付いていく。
その氷の波は、バズとメルに容赦なく襲いかかった。
やがて、二人はなすすべもなく厚い氷に囚われた。
再びティブロンの背に降り立ったシャグランが、凍り付くような冷たい声で告げる。
「ジ・エンド――」
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