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「ひ、ひーっ。サ、サメが来るーっ!」
舟を漕いでいた漁師は、人食いザメの猛突進にすっかり怯えてしまっている。
「大丈夫よ、おじさん。私たちを信じて――ヴィオ、お願い。チャンスは、一度しかないの!」
両手で杖を握っている不安げなヴィオを、フロールは背中からしっかりと抱きしめた。
そのあたたかさに、その信頼できるぬくもりに、ヴィオの心は決まった。
舟ごと食らう勢いで、ティブロンは口を大きく開けて浮上した。
「いただきまーすゥ」
「今よ! ヴィオ!」
「ごめんなさい――フムス!」
そう謝りながら、ヴィオは肩にいたフムスを凶暴なサメの口へと投げ飛ばした。
「えーーーっ! 聞いてないフム~ッ!」
「!」
予想外の異物が口の中に入ってきたため、シャグランを乗せたままのティブロンは、体勢を立て直すために、舟を飛び越えて水中へ戻った。
予想外の動きを見せたティブロンから放り出されるシャグラン。
身軽になったティブロンは向きを変え、もう一度舟の上の人間へ確実に狙いを定めて飛んだ。
そのつもりだった……。
「?」
次の瞬間、思い描いていたように飛べなかったティブロンは、自分の体が異様に膨らんだことに気付く。
そして、理由も分からぬまま、その体は内側から弾け飛んだ。
相棒を一瞬にして失ったシャグラン。
彼は、上空から音もなく舞い降りたストラールに気付いた。
「さらばじゃ」
しかし、ティブロンが突然破裂したことに困惑したままのシャグランに、その鋭い爪を避けることは、もはや不可能だった。
なぜか空から降ってくる無傷のフムス。
そのフムスをしっかり受け止めて、ヴィオがよろめく。
そして、そのヴィオを背中から支えたのは、フロールだった。
「フロール隊長、やっぱりすごいです!」
「だから言ったでしょ~、ヴィオ。お姉さんに、いや――隊長に、任せなさいっ!」
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