アウラ 記憶のないオオカミ

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「ここにいても仕方がない。とりあえず、僕の村に戻ろう」  メルはアウラの不安を感じ取っていた。  胸の内というか、頭の中というか、なんとなくお互いの思いを共有している感覚があった。 「……そうね。また襲われたら、十分に回復していないアタシたちは不利になる。行きましょう」  二人はゆっくりと歩き出した。  アウラが慎重に匂いを嗅ぎながら進む。  きっと、自分を襲ってきた何者かを警戒しているのだろう。 「おかしい。匂いがないわ……」   アウラがこれ以上不安にならないように、メルは明るく振る舞おうとする。 「大丈夫、僕に付いてきてよ。ポルテ村まではそう遠くないから」  引き続き警戒を続けながら、アウラはメルの横に並んだ。 「そういえば……お願いとか、バインドっていう声を聞いたような……」  アウラは反応しなかった。  春らしさを取り戻した風が生み出す葉擦れの音に紛れ、メルの独り言は消えていった。
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