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メルが後方を振り返ると、砂浜で遊んでいた子どもたちに向かって、何かが迫っていた。
あれは――さっきの姉弟だ!
話に気を取られていて、人がいることに気付かなかった……。
メルは慌てて子どもたちのほうへ駆け出した。
頼む、頼むから、間に合って――。
アウラとストラール、そしてバズがあとに続く。
「親父さん、舟を出してくれ! フロールたちはそれに乗るんだ、頼んだぞ!」
バズが走りながら指示を出す。
「分かったわ」
「今行くフム」
フロールは、不安そうに無言で走っているヴィオに声を掛ける。
「大丈夫よ、ヴィオ。私が付いているから」
ここからでもすでに、背びれがはっきりと見える。
間違いなくあいつだ。そして、間違いなく大きい――。
メルは、走りながら矢を放つ準備をする。
当たらなくてもいい。ひるませるだけで、いいんだ。
砂浜で立ちすくむ子どもたちに、サメが迫る。三メートルはあるだろうか――。
浅瀬などまったく気にする様子もなく、凶暴な狩人が全身をあらわにした。
信じられないことに、陸に上がってもそのスピードが衰えることはなかった。
「嘘……サメって陸でも自由に動けるの?」
フロールが自分の頬をつねりながら、目の前の光景が夢ではないことを確かめていた。
「粉々に砕いてやるゥ」
サメは、大きく口を開けて男の子に食らい付こうとする。
(ひーローのトうジょウだゼいッ)
だが、サメはメルの放った矢に気付き、直前でその体を反転させた。
「チッ」
尾びれで矢を弾き飛ばし、子どもたちは水しぶきと共に後方へ吹き飛ばされる。
バズが辛うじて男の子を受け止め、アウラは身を挺して姉を衝撃から守った。
ストラールが急降下してその鋭い爪で襲いかかろうとする。
メルも次の矢を準備する。
(エ~っ……サかナくサくナっチゃウ~)
しかし、そのどちらもサメに届くことはなかった。
「危ないっ!」
バズの声で、ストラールもメルも攻撃を止める。
うなりを上げて飛んで来た二つのブーメランを、二人は間一髪でかわした。
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