大丈夫

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 ある朝、仕事場である『まつい花店』に行くと、ガラスに一枚の紙が貼られていた。  前に貼っていた臨時休業はもう外したはずだ。忘れるわけがない。    なら、何なのか。  近付いて見ると『配達始めました 強化中』と、臨時休業のときより大きな文字で書いてあった。  パソコンで作ったもの。見栄えは悪くないけど、問題は中身だ。  花の配達は俺が店で働き始める前からしている。細々とではあるけど。その点では嘘になる。  開店前。鍵を開けて中に入り、奥にいる店主に声をかけた。 「あの貼り紙、何?」 「何って見ての通り。ホームページのほうは全然だから」  さらりと答えた。    確かにその通りではある。  ネットで発注、指定された日に配達をするサービスを始めたけど、掲示板には悪戯目的の書き込みが来ただけで肝心の依頼はなかった。  二人で経営するなら、二人分の稼ぎが必要。なので強化。  そこは分かる。  ただ、一つだけ、  彼女を店に一人で残して良いのか、という問題があった。  怖いものがある。   もう終わったことではあるけど、気持ちの上ではまだ終わっていない。  少なくとも自分のほうは。  そう思いながら『始めました』の意味を訊いた。 「配達なら、前からしてるよな」 「してたけど、あれは内々だったから」 「頼まれたから?」 「そう」  一人では大きく出られなかったという。 「この先は増えても良いよね」 「…まあ良いけど。先月のこと、忘れてないか?」  穏便に心配を投げると、彼女は少しだけ顔を曇らせた。 「忘れてないけど…私の怪我はもう治ってるし。言い出したら、いつまでも気にすることになる」  もう忘れよう、真面目にと言う。 「…分かった」 「じゃあ店開けようか」   軽く言って、店に出て行く。    どうやら俺より彼女のほうが強いらしい。  大丈夫じゃないのは、どちらかといえば俺のほうだ。  けど、少し不安定なだけ。  背筋を伸ばして、彼女を追った。
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