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両親がお盆休みで、俺たち家族は避暑地に来ていた。
といっても、30度超えの暑さであることには変わりなく。
少しでも涼もうと、俺は泊まっているペンションから散歩に出た。
ペンションのすぐ近くには林があって、多少は涼しい風が吹いていた。
俺は鼻唄まじりに林の中を歩く。
何をするでもない、こんなひと時がたまにはあっても良いな。
そんな事を思いながら歩いていたら、ぱっと視界が開けた。
そこは、一面のひまわり畑だった。
どこを見ても黄色い世界に、俺はしばらく足を止めて眺めた。
ふと、人の気配を感じて見やると、女性が立っていた。
歳は俺と同じ、大学生くらい。
大きな麦わら帽子を片手で抑え、もう片方の手で風にゆらめく真っ白なワンピースの裾を抑えていた。
ゆらり、と彼女の影が揺らめいた気がして、瞬きをする。
彼女も俺に気付いたようで、こちらを見てきた。
す、と透き通るような視線に、俺の背筋が伸びる。
「私が見えるの?」
柔らかい声が、胸に染み渡る。
ん?今、私が見えるかって聞いた?いや、気のせいか。
「君、この近くに住んでる人?」
俺の言葉に、彼女はふわりと微笑んで首を傾げた。
「うん、まあ、そうかな」
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