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エピローグ
香水の原料となるラベンダー畑を強い風が揺らしていく。
オレンジ色のキラキラした目をした幼い少年は、前を歩く少しだけ年上の少年たちを大声で呼んだ。
「もう帰る〜」
すると少年たちはそっくりな顔で振り返えるとこちらへやってきた。
「まだ来たばかりなのに、もう母さまが恋しくなったのかよ。今日は農園に一緒に泊まるって俺たちも母さまにいってきたのに」
青い目の気の強そうな少年がそう言うと、オレンジにグリッターをまぶしたような瞳の幼い少年は泣きべそをかいた。
もう一方の同じ黒髪に青い目の少年が優しい声を出す。
「寂しいのなら、俺が一緒に寝てあげるから、帰らないで一緒にいようよ。ライラが帰ったら俺が寂しい」
「僕が帰っちゃったら寂しいの?」
オメガの母親に似たぷっくりした頬の愛らしい顔でそう告げる少年に、優しい声をかけた方の美しい少年が抱き寄せて頭を撫ぜた。
「そうだよ。俺はライラが大好きだから」
すると幼いながらも頬を上気させて嬉しそうに声を上げて笑った。
「アルマ大好き」
するともう一人の少年がライラの手を掴んで無理矢理に引き寄せた。
「ずるいぞ! 俺だってライラのことが好きだ!」
びっくりして小さなライラはバランスを崩して畑の中に倒れこんだ。
「ジェレミ、ライラが怪我する。手を離せ」
「お前こそ手を離せ!」
畑の花をなぎ倒しながら、二人は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
オロオロして泣くライラの声を聞きつけて、農園の主である双子の母は農園で働くほかのオメガたちとともにやってきて二人の喧嘩をいなして止める。
いつもは仲良しの双子の兄弟なのに、ライラをめぐると喧嘩ばかりだ。
二人の母、ソフィアリはため息をつく。
双子は年の割に父に似て体格もよく運動も良くできて頭も切れる。
犬歯の先も尖っていて、アルファである可能性が高いのだ。
対するライラは本当に愛くるしい子で息子たちいわくたまらなく良い香りがするらしい。
こんな小さな頃からフェロモンが、香るはずはないと思うのだが、一説には魂の番という特別な縁で結ばれた番同士は幼い頃からその存在を検知できるという。
……今は子どもの喧嘩程度で、すんでいるが……
大人になったらこの三人の関係性はどうなるのだろう……
一人のオメガに二人のアルファ。
そしてその両方が魂の番だったのなら?
今から頭が痛いソフィアリだ。
夏の終わり、農園ではラベンダーの刈り取りが最盛期を迎える。
向こうからライラの母であるランが抱えきれないほどのパイや果物を入れたバスケットを持って畑に現れた。
昼食を取ろうと声をかけると3人は途端に機嫌をとり直してライラを真ん中にして手をつないで畑の畦を駆け出した。
夏の昼間。幸せな光景がいつまでも続くようにと。
穏やかなこの時を噛みしめるランとソフィアリだった。
終
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