【3】神なるもの

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【3】神なるもの

 そうだ。思い出した。  あの時、イアフメスの声なき声に応えて、ラーメスをつっついて起こしてくれた不思議な朱鷺。  「あれは――あんた、だったのか」 振り返って祠の奥に視線をやるが、朱鷺の姿は、既にそこには無い。…いや、正確には、そこに居るけれど見えていないのだ。もう話をしたくない、という意思表示なのかもしれない。  「なあ…あんた、本当に、神様…なのか?」  『……。』 返事はない。  今いるそこは、確かに見覚えのある小さな祠の前だ。周囲には、もう長いこと手入れのされていないらしい、草に埋もれた低い壁が(やしろ)を形作っている。確か幼い頃、まだ祖父が存命だった頃には何度か捧げ物をしにここを訪れていた記憶もあるが、この何年も、すっかり忘れ去っていた。他の村人たちも同じだろう。誰も、訪れている形跡が無い。  もしも本当にこの朱鷺が、今も村の守り神として働いていて、イアフメスの願いに答えて弟を助けてくれたのだとしたら、このままにはしておけない。  けれど死んでしまった今、もはやイアフメスに出来ることは、何も無いのだった。  (とにかく、今は…家に帰らないと…)  自分に言い聞かせ、イアフメスは立ち上がった。神と人の領域を隔てる社の境界を踏み越えて世界に視線を巡らせると、視界の向うには、見慣れた村の風景が広がっている。  黒い流れの満ちる川、川縁に広がる畑と、青々と草の茂る川べりの小道。  風が吹いて、高い青空にうっすらとした白い雲を散らしてゆく。  けれど、見えている世界は同じでも、全ての意味は違っていた。そよぐ草を踏み分けても、もう、足の下で草は倒れない。今のイアフメスには、影だけでなく実体がないのだ。地面の上を歩いている感触もなく、どこかふわふわして、何となく落ち着かない。それに、太陽の光を浴びていても、暑いとも、暖かいとも感じない。  これが「死ぬ」ということなのか。  全て夢だったら良かったのに。そう思いながら社のある小さな丘を降りていくと、すぐに自分の家が見えて来た。  川縁の黒い泥を固めて干した煉瓦を積み上げ、葦で屋根をふき、茅の茎を叩いて編んだござを入り口の暖簾にした小さな家。入り口の側にある水入れの瓶、その傍らにある敷き布をかけた長椅子に、一頭だけ飼っている年老いた雌牛の小屋。全ては記憶のままに真昼の日差しを浴びて、確かにそこにある。これは夢ではなく、紛れない現実なのだった。  家は、まるで死んでいるかのように、しんと静まり返っていた。  普段ならこの時間には、朝のひと仕事を終えた父が日差しを避けて家で一休みしているはずだった。そうでなくとも、縫い物の得意な義母が表の長椅子で、昼の明るい光の下でせっせと針に糸を通していても良かった。恐る恐る覗き込んだ家の中は薄暗く、鼻につく嫌な匂いがした。  イアフメスは、ふいに不安になった。  「みんな、どこへ行ってしまったんだ?」 よく知っているはずの場所なのに、誰もいない。  急に体から力が失われていくような気がして、イアフメスは両手で頭を抱えるようにして覆いながら家の入り口の長椅子に腰を下ろした。まるで、この世界から自分以外の人間が全て消えてしまったような、まだ半分、夢を見ているような、そんな気分だった。  そうして、どのくらいの時間が過ぎたのだろう。  足音と話し声に気がついて顔を上げた時、既に日は西へと傾いて、通りに伸びる影は長くなっていた。  先頭を歩いてくるのは、疲れきった顔をした父。その後ろから肩を寄せ合うようにした義母と妹、肩を丸め項垂れたラーメス、それに、村の人々が、さざめきながら群れ従っている。村人たちの先頭にいるのは、刈り取った茅を加工して紙をつくる工房の親方だ。  家族が戸口にたどり着くと、工房の親方が言った。  「それじゃあ、わしらはここで」  「ああ。今日は本当にありがとう、助かったよ」 答える父の顔は、ひどく年をとったように見えた。工房の仲間たちが近寄ってきて、次々と父の肩を叩き、手を握る。  「そう落ち込むな、あんたにはまだ、もう一人息子がいるじゃないか」  「不幸な事故だったんだ。鰐に体を食われなかったのが、せめてもの救いだった」 父はいちいち頷いていて、弟のラーメスはますます背を縮こまらせながら聞いていた。義母は泣き顔を見せたくないのか、娘を連れてもう家の中に入ってしまっている。頭がぼうっとなりながらも、イアフメスは、それが自分に関わることなのだと次第に理解していった。  送ってくれた村の人々に礼を述べ、家の中へ入っていく父と弟。  彼らは一度たりとも振り向きもしなかった。すぐ側に、自分が立っていたというのに。  『納得したか?』 頭上から声がした。振り返ると、イアフメスの肩より少し上のあたりに、半透明の薄ぼんやりとした黒朱鷺の姿があった。その向うには、屋根の端と、少しずつ藍の深さを増してゆく空とが見えている。  『お前は間違いなく死んだのだ。お前の体は今朝、祭儀場に運ばれ、今は死出の旅のための処置を施されて居る頃だ。ここに、お前の居場所はもはや無い。見よ』 黒朱鷺は、三日月のように曲がった長いくちばしで東の空を指し示す。  『間もなく、月が昇る。魂の導き手、死者たちを載せる銀の舟が来る。あれに乗り、死者の国へと(くだ)れ』 その舟のことを知っていたわけではない。村には、その手の伝説や宗教にまつわる知識を教えてくれる学校や神殿もなければ、学者も神官もいない。  けれど、今のイアフメスには本能的にゆくべき道が分かった。死の国は、太陽の沈む方角にあるのだと。死者の魂は、速やかにそこへ行かねばならない。  東から登ってくる丸い月を見つめていると、その周りにきらきらとした輝きが手招きするように浮かび上がり、銀色の道が伸びてくるのが分かった。生きていた頃には見えなかったものだ。きっと、死者にだけ見える導きなのだろう。  ――そこまで判っていながらも、彼は頭を振り、一歩あとさすった。誘うように差し伸べられる月の光の手から目を逸らし、一言、ぽつりと呟いた。  「…まだ、行きたくない」  『何を迷う必要がある』  「せめて、あいつに…」 イアフメスは、細い明かりの漏れてくる家の戸口を見つめた。  「弟に、別れを言いたい」 黒朱鷺は呆れた様に、薄く嘴の隙間を開いた。  『死者の言葉は生者には聞こえない。』  「何か、方法があるだろ。夢枕に立つとか。」  『それは――』  「せめて、一日だけ」 彼は懇願するように月を見上げた。こんな風に突然、家族と別れてしまうなんて嫌だ。心残りだってある。自分がいなくなってしまったあとも、弟が、ラーメスが、この先も平穏に、家族と暮らしていけるという確証が欲しかった。事故に遭う直前、あれほど激しく抵抗して、何も言わなかった弟の悩み事を、せめて解決してやりたかった。  『…好きにしろ』 諦めたように言い捨てて、鳥は翼を広げた。  「どこへ?」  『夜は、私の時間だ。』言いながら、黒朱鷺は音もなく舞い上がる。『昼間は光が強すぎる』 村の上空へ何処へともなく消えてゆく黒と白の姿を見送りながら、イアフメスは少し眉を寄せた。変わった鳥だ。夜に飛ぶなんて、まるで夜鷹か梟のようだ。  変わっているといえば、そもそもは、どういう神なのだろう。本当に、祠に収められた、あの古い朱鷺の聖体に宿る霊なのか? 確か、死者の魂は、鳥の姿になって、聖体にされた体に戻ってくるのだと聞いたことが在る。だが、動物で同じ事が起きるだろうか。神殿で作られた聖体には、何か特別な祈りでも込められているのかもしれない…それとも、祠に祀ったから、あれは「神」になったのか?  視線を空から目の前に戻し、イアフメスは、目の前の家の入り口を見つめた。  入って中の様子を確かめたかったが、どうしても、足がそれ以上、中へは進めなかった。どうやら死者の魂は、生者の暮らす家には入ることが出来ないらしい。  悲しくなって、イアフメスはまた戸口の脇の長椅子に腰を下ろした。死んでしまったばかりに、自分の家にも入れないなんて。それどころか、何をするにも実体に触れることは出来ず、誰に話しかけることも出来ず、ここにいることさえ誰にも察してもらえない。  夜の支配する刻限になっても、夏の陽はぐずくずと、いまだ西の空に炎の跡を残している。  それでも闇はゆっくりと広がりつつあり、村の他の家々にも、一つ、また一つと小さな明かりが揺らめき始める。夜が更け、空気が冷え、風が冷たくなっても、イアフメスはずっとそこに座り続けていた。  死んだらどこへ行くかなんて、気にしたこともなかった。  祖父が死んだ時も、実母の時も、それがやがて自分にも訪れるものだとは思っていなかった。いつか順番が回ってくるにしても、もっと先だと。  それが、こんなに早く、しかも突然に、自分の目の前にやって来るなんて――。  ふいに、戸口にかけられた茅作りの暖簾が乱暴に押し上げられ、自分と同じ顔をした少年が一人、俯き加減に中から出てくる。  月の光に照らされた弱々しい白い横顔を見て、イアフメスは立ち上がった。  「ラーメス」 声をかけても、振り向くことはない。だが、それでもほっとした。中洲に突っ伏した時のだろう、頬の辺りと、泣きはらしたように晴れた目のあたりに幾つかの擦り傷があるほかは、どこにも怪我はしていない。腕も足も鰐に食われていない。イアフメスとそっくりで、それより少しばかり色の白い少年は、すぐ側にいる兄に気づいた様子もなくその前を通り過ぎ、川の方へ続く小道を辿ってゆく。  イアフメスは、何も言わずにその後に続いた。  あと何カ月かすれば、川は増水の季節を迎える。その季節に水没してしまわないよう、村の家々は氾濫原の外の堆積土で高くなっている辺りに作られている。川へ降りるには、夏草に覆われた土手の斜面を下っていく必要がある。  ラーメスが何所へ向かうのかは、最初から知っていた。  弟はいつも、何か辛いこと、悲しいことがあると、川縁へ降りた。小さい頃からそうだった。流れる水を眺めていると、心が落ち着くのだと言っていた。兄に比べて考えていることを言葉にするのが苦手だった弟は、そうして言葉にならない胸のうちの言葉を、川の水に委ねて流してもらっていたのだと思う。水面に浮かんでは消えるあぶくを眺めていた。何時間でも、そうしていた。兄弟げんかをしたあとはいつも、イアフメスのほうから黙りこくって水面を眺めているラーメスを迎えに行って、隣に腰を下ろして謝って。仲直りしてから一緒に帰っていたものだ。  今、同じように草の合間に腰を下ろした弟を見て、イアフメスも、いつもと同じように隣に腰を下ろした。  互いの息遣いが聞こえるほどに近くにいる――それなのに、ラーメスからは兄の姿も、気配も判らないのだ。  ふいに、ラーメスの肩が小さく揺れた。泣いている。膝を抱えて、声を押し殺して、体を震わせながら泣いている。  涙を拭ってやろうと手を上げて、その手が半透明なことに気がついて、イアフメスは言葉を失った。そうだった。もう、何もしてやれることはないのだった。  「…ごめんな。」 聞こえないのは分かっていながら、彼は弟の肩に手を回して呟いた。  「泣くなよ、ラーメス。そんな風に泣かれたら逝けなくなるだろ。この先、俺がいなくなっても、なんとか一人で頑張ってくれよ…」 細い月の輝きが、上流からの水が満ちてくる水面を照らし、中洲の背の高い茅たちを銀色に照らしだす。  ふと空を振り仰ぐと、月はゆっくりと夜空を通り過ぎながら、死者を待つように、そこに浮かんでいる。  別れの挨拶は終わった。  ここで出来ることはもう、何もない。立ちあがり、イアフメスは一つ呼吸して、死の世界へ向かう覚悟を決めようとしていた。  と、その時だ。暗い水面で何かが、ちゃぷんと音を立てたのは。  はっとして振り返ったイアフメスは、月の作る木立の影に蠢く何かの影に気がついた。大きなあぶくが一つ、水面に生まれて消える。音もなく水紋が広がり、ゆるゆるとこちらに近づいてくる。  「あの鰐だ!」 イアフメスは慌てて取って返すと、まだ膝を抱えて水辺に蹲ったままの弟を揺さぶった。  「おい、ばか! めそめそしてる場合じゃない。こっちに来るぞ! 早く逃げろ」 だが、触れても手はすり抜けてしまい、どんなに耳元で叫んでもラーメスは顔をあげない。動かない少年を格好の獲物と思ったのか、もはや鰐は姿を隠してはいなかった。水面に黄色く怪しく光る目を出し、慎重に距離を計りながら向かってくる。  「やめろ、来るな!この――」 イアフメスが鰐に向かって拳を振り回すと、鰐は一瞬だけ、何かの気配を感じ取ったかのように怯んだ。動物の勘は鋭い。何かいることに気がついたのかもしれない。けれど脅しが効いたのは、ほんの一瞬だけだ。取るに足りない幽霊の脅しなど、現実に生きている大鰐には何も怖くないということか。  「ラーメス! ああ、くそっ。誰か!」 空に向かってイアフメスは叫んだ。  「天の神様! 月の舟の神様!」 今まで神様に祈ったことなんて、数えるほどしかない。だから名前も知らない。誰かに助けて欲しかったのだ。哀れな死者の声を聞いてくれる者なら、どんな神だって。  それなのに、か細い声うめき声とともに目の前に現れたのは、さっきの半透明の黒朱鷺だった。  『散歩の途中だというのに――なんだ、騒々しい。』  「鰐が居るんだよ!」 イアフメスは、あまりに切羽詰まっていて、深く考えている余裕は無かった。  「弟が動かないんだ。このままじゃ、鰐に食われちまう!」  『また、こいつか』 ちらと地面の上を見て、朱鷺はうんざりしたような顔になった。  『そしてまた、お前が救いを望むのか。』  「何とかしてくれよ!」  『ああ、分かった、分かった』 優美な翼を広げると、それは大きく羽ばたいてラーメスに風を吹きつけた。銀色の光の粒が舞い散り、辺りに不思議な空気が満ちる。  はっとして少年は顔を上げ、涙に霞む目を水面に向けた。そして、すぐ目の前に迫った鰐の黄色い目を見て、ぎょっとして体をこわばらせた。足がすくんで、立てないのだ。  「ぐずぐずするな! 早く逃げろ!」 鰐はまだ、獲物を狙い続けている。だが宙に浮かぶ黒朱鷺が、黒い毛のない頭をくるりと動かして睨むと、動きを止めた。幽霊は怖くなくとも、一応は神であるらしいその朱鷺の一瞥には、効果があるようだ。  鰐は口元に幾つかあぶくを生み出しながら、渋々という表情で水の中に沈んでゆく。  呪縛がとけたように、ラーメスはよろめきながら立ち上がった。そして、後ろも振り返らずに、坂道を何度も滑りながら転がるようにして家の方へ駆け去って行った。  ほっとして、イアフメスは草の間にへたり込んだ。  「ありがとう、…助かった」  『どうしたしまして、と言いたいところだが…死人からの感謝など、何の足しににもならん』 黒朱鷺の声は不機嫌だ。  『タダ働きもいいところだ。まったく、お前の弟は運がいい。二度も命を救われるとは』  「それを言うなら運が悪い、だろ?数日で二度も死にかけた。あいつは――」 イアフメスは、溜息とともに額に手を当てた。  「昔からこうなんだ。危なっかしくて、ぼーっとしてて、考えごとをしてる時なんて何も見ちゃいない。一度なんて足を滑らせて茅を煮る釜に落ちかけたことも」 言っているうちに、涙が込みあげてくる。  「どうして、あいつを置いてなんていけるだろう。俺がいなくちゃ、あいつは…」 声が詰まった。自分は死んだのだ。もう、側に居てやることは出来ない。触れることも、話しかけることも出来ない。  「なあ、あんた」 イアフメスは、宙に浮かぶ鳥を見上げた。  「――そういえば、あんた今、何をしたんだ? 俺の声はラーメスに届かないのに、あんたは気づかせた。鰐も。あんた一体、何なんだ?」  『我が”何”か、だと?』 黒トキは、茶色く縁取られた赤い目を見開いた。  『それなら、お前は見ただろう、我の姿を』  「祠にあった聖体のことか? あれはただの朱鷺の死体だろ。」  『”ただの”死体。』 鳥はフンと鼻を鳴らした。  『そう、”ただの”死体だ。神聖なる動物として油をすり込んで乾燥させ、包帯に巻かれ、朽ちぬ器に縛られて、魔除けの護符代わりにされたもの。それが、我だ。”神の家”と祈りの手続きにより、このちっぽけな村を守ることを義務付けられたものの正体だ』  「手続き――」 そういえば――、あの聖体を収めた祠を建てる時、確かに祖父は神官を呼んで来て、何か祭りのようなことをやっていた。あれが、そうなのか?  「つまり、あんたは本当に、本物の神様?」  『そんな立派なものなわけがあるものか。神にはなりきれず、悪霊に落ちることも許されぬ惨めなただの鳥に過ぎぬ。お前たちの言葉で言うならば、”守護霊”程度のモノでしかない』 そう言って、黒朱鷺はずい、と長い嘴をイアフメスの鼻先に近づける。  『出来ることといったら、せいぜい、お前のような迷い霊の未練を断ち切ってやることくらいだ。』  「未練って…」  『死んだくせに地上を彷徨い続けている迷い霊など、いずれは悪霊になる。望もうと望むまいとな。その前に、あの世へ追いやらねばならんのだ』  「そんな」 イアフメスは、首を振った。「俺はただ、ラーメスのことが心配で…」  『死者は皆、そう云う。心配だから、愛しているから、側に居たいから…そう言いながら生者に纏わりついているうちに、いつしか生者に恨みを抱くようになるのだ。死者の時は止まったままでも、愛した者たちの時は進み続け、人は生きている限り変わってゆく。それを許容と出来たとしても、触れられず話しかけられもしない境遇に、いずれは狂ってしまうのだ。分かったらさっさと逝け。』  「待ってくれ!」 飛び立とうとする黒い朱鷺に、イアフメスは追いすがる。  「それでも、あんたは神様なんだろう? 俺の声に応えてくれたんだろう? だったら、これからも弟を――」  『我は人間が嫌いだ』 声は頭上から聞こえた。神とは思えない、冷たい言葉。  『夜の静寂を乱されたくはないだけだ。去れ、諦めろ。人はみないずれ死ぬ』 夜空に向かって舞い上がる先の黒い翼が、月と重なってゆく。  唖然として見上げているイアフメスの視界の先で、それきり、鳥は振り返ろうともしなかった。
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