即席

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 ぼくの作業はここまでで終わりだ。 「よし、あとはお湯を注いで……と」  ゆっくりと湯気が立ち上る。しゅわしゅわ、といくつかの気泡が弾けて、カップの底から空気を追い出した。 「うん、上出来」  五分きっかりを計る砂時計をひっくり返す。  思えば七日間、しっかり頑張ってきた。  初めての朝は緊張した。  ゼロから創り出す喜びを知った。  いくつか失敗もした。  眠らずに作業をした日もあった。  だが、これで報われる。これで、あと五分待てば完成するのだ。 「やっとだなぁ……うまくできそうでよかった」  さらさらと砂時計の中身が落ちていく。  感慨深い。何もしなくていいこの時間がなんとも愛おしい。  ぼうっとしていたら、砂がもうほとんどなくなってしまっていた。 「お、よしよし」  慌てずに、そうっと砂が落ち切るまで待つ。 さらり  最後の一粒が落ちたその瞬間、ぼくはふたを開けた。 「アンハッピーバースデー!」 「あなた、大好きよ」「ああ、嬉しいよ」 「ママ、もう終わっちゃうの?」「大丈夫、きっと痛くないわ」 「総統、ご決断を!」「ううむ……もう、尽くすべき手は尽くした」 「もう終わりなんだ、終わりだ終わりだ! 壊れちまうんだ! ぎゃははははは!」 「愛しているよ、愛しているよ、あのとき謝れなくてごめん。今から、そっちに行くよ」 「ああ――世界、終わるんだなぁ」 「あちゃあ……五分前から世界を作ると、やっぱりこれだ」  ぼくは実験台にカップを持って行って、放置する。そうしたカップの山がもういくつも重なっていた。  中身は、干からびていたり凍っていたり、カップからあふれんばかりの水が入っていたりする。 「あーあ、やっぱり光から作るしかないのかなぁ。前はそれでうまくいったんだもん。インスタント世界ってのは、無理なのかな」  ぼくは、滅んでいくカップの中からの悲鳴を聞きながら、大きく伸びをした。
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