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もう少し、眠っていればよかった。五分でもいいから、寝たふりではなく、本当に眠っていたかった。そうすれば、彼が耳元で囁いた愛が私の無意識に響き、素晴らしく甘美な夢を見ることができただろう。
どんなに私が情愛というものに冷めた人間でも、その夢を抱えてさえいれば、突然姿を消した彼の帰りをしばらくは待ち続けることができたはずだ。微かな彼の囁きは、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだった。
私は目を閉じたまま、彼の言葉と、玄関のドアが開閉する音を聞いた。彼の全てが、私に背を向けている気がした。
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