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悩みがちな創造主
ああ、今日もまた目覚めてしまった。
あと5分…いや、いいや、起きよう。
わたしは極力ゆっくりとした動作で起き上がり、下界を覗き込む。
わたしは下界の住人たちから「創造主」と呼ばれているらしい。まあ何しろ下界を創りあげたからねぇ。はるか昔、6日間で下界を創り上げたときはそれはもう疲れたけど楽しかったなぁ。やりがい、というか使命感というか、何かに突き動かされるように作ったんだよな。
そもそもの地球はとても美しかったのだ。青く澄んだ空、空を映し出す海、海を堰き止める緑の山々…。わたしの最高傑作だ。ところが最近の地球ときたらどうだ。地球上を埋め尽くす沢山の建築物。山を崩し、蜘蛛の巣のように張り巡らされた道路。これじゃどっちが創造主かなんて分かりゃしないや。
さて…と。今日も誰かの願いを叶えてあげよう。やりがいを感じるわけではないが、たまには「奇跡」を目の当たりにしないと下界の住人は創造主の存在すら忘れてしまうだろうからな。
天上から見下ろす下界はなんともこまごまとしている。地上でたくさんの創造物が肩寄せ合って、日々必死になって生きているのだと思うと、全ての生命の願いを叶えてあげたくなる…。いやいや、感傷に浸ってる場合ではない。願いを聞くために耳を澄まして…。
ピピピピッ、ピピピピッ
「ああ、もうこんな時間か…。あと5分寝かせてくれ…」
おお!同好の士よ!君も朝寝が好きかい。ふふふ、今日は君の願いを叶えてあげよう!世界の時を5分止めてあげようではないかっ。
世界の時間よ!今だけ全ての創造物に休息を与えよ!5分だけとまれっ。
ピピピピッ、ピピピピッ
「う…ん。うるさいな。いや、でも起きなきゃ遅刻だ…。今月はもう一回遅刻してるし、これ以上遅刻したらやばいぞ…!」
目覚め時計に表示された時刻をチラッと見て、ベッドから飛び起きた創造物は急いで支度を済ませた。そして「こんな些細な願いも叶わないなんて、つまんない世界だよな」とため息をつきながらひとりごちた。
かくして創造主がおこした奇跡は誰にも気づかれずにひっそりと終わった。
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