序章 ホイホイの草を摘みに

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 私はあっけにとられた。なんと摩訶不思議な言葉だろうかと。私はハコベを摘む手を止めてその子を呆れたように見た。  すると女の子は、今度は足下に生えていたツユクサを見るやいなや、こう続ける。 「これはアオノシズクソウ。この花の露を煮出して、スープを作って食べると全身の血が青くなって体が冷えるの。夏にいいわね。けど秋になっても血の色は戻らない副作用があるけどね」  ……なんだ、この会話は。  私は、東京郊外の空き地から、何やら魔女の徘徊する異世界の森に飛ばされた気分になり思わず周りを見回した。だが、そこはいつもの空き地である。家並みの向こうには、私の住んでいるアパートもたしかに見える。  ……ちょっと妄想が過ぎた、変った子なのかな?この子にとっては、この不思議な会話は、ただのおままごとみたいなものなのかしら。あるいはちょっと変ったお店屋さんごっこというべきか。  そう戸惑いながらも、私はその夏、いつしか、毎朝、空き地で会う少女とのその不思議な“薬草”についての会話が、ひそかな楽しみになっていった。
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