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序章 ホイホイの草を摘みに
私には日課がある。朝、起きたらまず、仕事に行く前に、飼っている十姉妹の好物のハコベを摘みに行くことだ。
私がひとり暮らししている東京郊外のこの町には、宅地化をかろうじて免れた小さな空き地が、住宅街の中に点在している。その空き地の中に、ハコベが人知れず群生しているのだ。
だから、私は毎朝、コンビニのレジ袋を片手に足を運ぶのだ。これが、雰囲気のある籠だったらもっと格好つくんだろうなあとか、とか思いながら。
そんな、ある夏の朝のことだ。いつものように空き地に行くと、隅に見知らぬ女の子の姿があった。夏休みも始まったことだし、自由研究の材料でも探しに来ているのかな。
私がそんなことを思っていると、女の子はぺこりと頭を下げた。つられて私もおじぎすると、女の子はなんとも不思議なことを口にした。
「お姉ちゃんも、この園に、何か薬草を見つけに来たの?」
「……園?薬草?違うよ。わたしはハコベを摘みに来たの。うちの鳥の大好物だから」
私は、これは、やばい子に関わっちゃったかなあ、と思いながらハコベを摘み始めた。すると、女の子はかまわず話しかけてくる。
「これが、はこべ?ちがうよ、お姉ちゃん。これはホイホイノクサ。好きな人に食べさせると、ほいほいと食べさせた人のことを好きになるのよ」
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