1. 死去。のち、転生

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1. 死去。のち、転生

「よお。寝覚めはどうだ?」 「ん……ここは……」  目が覚めると知らない空間にいた。  あれ?なにこの真っ白な空間。俺確か図書館で魔導書読んでたはずだよな? 「全く。勉強熱心なのは良いが、自分の身体を大事にしないのは感心せんなぁ」  妙に馴れ馴れしいな。  声の聞こえた方を向けばプカプカと浮遊している見知らぬ人物がいた。  ゴリゴリマッチョの筋肉男が煙管片手にだらけている。つるんつるんの頭皮が眩しい。ぷかーっと煙を吐いてボリボリ腹を掻いてるその姿はなんか駄目人間オーラを感じる。  俺の視線に気付いた筋肉男がむっと顔を歪めた。 「誰が駄目人間か。俺ぁ神様だ」 「駄目の部分は否定しないのかよ!てか神様?」  神様ってあれでしょ?美少女とか美幼女とかの可愛い女の子でしょ?ツルッパゲの筋肉ダルマはお呼びでないぞ。 「そ。お前さんが死んだから神様自ら出向いたって訳だ」  そうか、死んだ人間をお迎えするためか。微妙にカルチャーショックを受けた。  物語の中で神様は女だって語られても現実は違うものなんだな……てかあれ? 「し……死んだ?俺が?」  図書館で読書してたのが最後の記憶。死んだなんて言われても実感がない。 「ふぁあ……極寒の地にある図書館で防寒具ひとつ着けねぇで読み耽ってりゃ、そら凍死するわな」  欠伸を溢しながら言われた言葉に頭をフル回転させて記憶を絞り出す。  そうだ、この世で最も寒い地域と噂される土地にある図書館に世界でたったの2冊しかない貴重な魔導書が蔵書されたって聞いて居てもたってもいられずに転移魔法使ってそこに行ったんだ。  俺のいた土地からは大分離れてるせいでその噂が届くのも時間がかかり、転移魔法を使ってもその貴重な魔導書を読むまで一ヶ月も待たされた。  ようやく順番が回ってきて、通りすがりの人がドン引きするくらいじっくり舐め回すように熟読していた。極寒の地というだけあって図書館の中も結構寒かったが、指先が悴んでもお構い無しに読み耽っていたので気にも留めなかった。  それが凍死に繋がったって訳か。間抜けだな俺。 「くっ……あの魔導書、半分しか読んでなかったのに……」 「心底悔しがるのそこかよ。死んだことに何も思わねぇの?」  死んだ事実は変わらない。なら受け入れるしかない。  惜しむらくはあの貴重な魔導書を読破できなかったことだが、いつまでもくよくよしても時間の無駄だ。  それに、 「伝説が本当なら、転生ガチャってのがあるんだろ?運が良ければ記憶や魔力を引き継ぐことも可能だと」 『転生ガチャ』  生きていた頃、何度も耳にした単語だ。  死んだ生き物は皆等しく転生する機会が与えられるという。それが転生ガチャ。  転生する種族も転生先の世界もランダムで、ごく稀に転生前の記憶や魔力が引き継がれることもある。といってもそれは余程の強運でなければ可能性は極めて低いのだが。  けど転生前の記憶を有している人は生前何度か接触してるので、全くの皆無でもない。  転生前の記憶も魔力も引き継がず、全く新しい人生を送る者が大半らしいが。  転生前と同じ世界、同じ種族に生まれるのもたまーにあるので転生ガチャという言葉はわりと世界に浸透してる。  ただし伝説として。  転生前の記憶なんて調べようがないし、嘘を語ってる可能性もあるからな。  たとえ事実だとしても各国のお偉いさんは認められない。認めてしまった暁には、死んだら自分の望む種族に転生できるかもしれないと淡い期待をして自ら命を捨てようとする愚か者も出てくるだろうし。  だからあくまでも伝説扱い。 「おーそうだぜー。記憶とか引き継げんのは本当に運が良いやつだけだがな」  そう言って取り出したのは人間二人分くらいの大きなガチャガチャ。どこから出した。 「これがその転生ガチャだ」 「マジのガチャガチャなのか……」 「ランダムにすんのにちょーどいいんだよコレ。俺が楽できるから」  堕落してるな神様。  まぁいい。さっさとガチャ回して転生しよう。  短い人生だったがそれなりに充実していたな。新たな魔法を研究したり、新たな魔道具を開発したり、世界各地を旅してみたり。魔法や魔道具の研究のためにありとあらゆる魔導書を読み漁ったりもした。  いつの間にか賢者様とか言われて拝まれたりもしたけどそれは意味が分からなかったな。俺はただ研究に没頭してただけなのに。  たまに失敗作を譲ったりはしてたけど、それだけで拝むか普通?  俺はただのしがない研究者だというのに。  まだまだ研究したいことは山ほどあったが仕方ない。次の人生でも研究一筋に生きよう。  記憶がなくなってもきっと俺は研究者として生きるだろう。  もし記憶が残ってたら生前やり残した魔法の研究を進めるとしようか。  ハンドルを何度か回す。  ころんっと掌サイズのカプセルが一個出てきた。  早速開けて中に入ってた紙を広げる。  下から順番に視界に入れていく。 【魔力・継続】  よし、魔力は生前から引き継げるようだ。  研究のためにはどうしたって魔力が必要だ。多ければ多いほど複雑な魔法を作れる。イチから鍛えるとなると面倒だから助かった。 【記憶・継続】  おお!これは嬉しいぞ!  魔力だけ引き継ぐのはそう珍しくないが、記憶もとなるとぐっと確率が低くなるんだよな。我ながらかなりの幸運だ。 【世界・フェイドス】  ん?知らない名前だな。俺のいた世界とは別の世界ってことか。  記憶も魔力も継続できるんだ、どんな世界だろうと構わん。研究さえできれば文句はない。  そして最後の一文を目にし……固まった。 【種族・ひよこ】※鶏に成長できません 「……なぁ神様。この一文を読んでくれ。俺の目がおかしくなったようだ」 「あん?種族・ひよこ……ぶっは!ひよこって!しかも成長できねぇとか!ぶあっはっはっはっ!!魔力と記憶の継続に運使い果たしたなこりゃ!」  俺の心境なんぞお構い無しに笑い転げる神様。  ぶん殴りたい。 「……魔力と記憶を引き継げるだけ良しとするか」 「ふはっ、ひー、あー笑える……お前いいの?ひよこだよひよこ?しかも大人になれないひよこ。どーする?一回だけならやり直しできるぞ?」 「いや、いい。魔力と記憶を継続できるカプセルなんてほとんどないんだろ?研究さえできるなら種族なんて何でもいい。ちょっと驚いただけだ」 「なんでもいいのか……まぁやり直すのも面倒だから良いけどよ」 「なら早く転生させてくれ」  やり残した魔法の研究も再開したいが、それ以上に転生先の世界も気になる。どんな世界が待ってるのか楽しみだ。研究の幅が広がるような面白い世界だといいな。 「揺るぎねぇ研究馬鹿だなぁ……んじゃ早速、っと」  パチンッと神様が指を鳴らすと自身の身体が白く輝いた。  やがて意識が遠退いていく。  短かった人生が終わり、新たな人生が幕を開ける。  種族に少しばかり不安が募ったが今更だ。  神様がだらけた格好のまま手を振って見送っている。  ……どうせなら、筋肉ダルマのパゲ親父じゃなくて美人な女神に見送られたかった。  そう思った次の瞬間には俺の意識は完全に闇の中だった。
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