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一.
特別な顧客のために設けられた小狭いVIPルームで、店長と思われる四十過ぎの黒スーツの男と、ラフだが高級ブランドのロゴがさりげなく入った衣服を纏いソファに軽くもたれる若者が、低いガラステーブルを挟んで向かい合っていた。
やがて何やらもったいぶった様子で、店長が語り出す。
「多指症というものをご存知ですかな?
手や足の指が、母親のお腹の中にいる胎児の成長過程で、五本よりも多くに分かれて形成されてしまうというものです。
これは意外にも千人に一人というようなかなりの高確率で生じる現象でしてね。
しかし通常は一歳未満の、まだ指の神経がしっかりと繋がる前に切除してしまうもので、本人も知らぬまま育っていくということも多いのだそうですよ。
身体異常?
とんでもない。
多指症は、国や時代によってはむしろ、尊き者のみに現れる形質としてもてはやされていたこともあるのです。
日本においては、かの豊臣秀吉公が右手の親指が二本あったという記録が残されておりましてね」
「ふぅーん」
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