四.

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四.

「時計というものには二種類ありましてね、『現在時刻を知るための時計』と、『開始から終了までの時間を測る時計』です。 時間を測るための小さな時計というものは、意外と簡単に作れるものです。 砂時計がその代表でしょう。 砂を水に置き換えた水時計などもあったようですが、これは持ち運ぶには適さないでしょうから()え置いて使われていたのでしょうね。 しかし現在時刻を知るための時計というものは、これは難しい。 現在の時計でも安物は時間がズレていくでしょう。 ゆえに古くより機巧(きこう)的な時計を作るためには、専門の時計職人というものが存在したわけです。 秒、分、時、それぞれを別々の針で表示し、秒針が六十秒進んで一周すると分針が一つ動く。 分針が六十動いて一周すると時針が一つ動く。 説明するだけならばごく単純なこの機構を、より正確に精密に作り上げるために、職人たちはしのぎを削り競い合い、肉眼で取り扱うにはとても困難な程の小さなネジや歯車を、ほんの(わず)かなズレも無く削り出し組み合わせていきます。 そしてそれらを動かす心臓部には長らくゼンマイが用いられ、と、御存知ですか?ゼンマイはヒゲクジラ類のヒゲなんですよ。 現在では諸々の理由で金属製のものがほとんどですがね」 「あぁ、捕鯨的なあれがあれですしね……」 「そう、そして置き時計には物理学の進歩により振り子が主に用いられるようになりました。 こちらも御存知ですかな? 振り子というのは支点から重りまでの長さのみによって周期、つまり左右に行って戻る時間が決まるのです。 どんなに大きく振ろうと、重りの重さを変えようと、無関係なのですよ。 これは便利です、振り子の長さと時間の対照表があれば、どんな素材でどんな重さの重りを用いようが誰でも同じ時間を測れるのですから。 そしてこの当時性を応用し、振り子の一定した揺れを歯車に伝えて針を回すのが振り子時計というものです。 とは言え実際には諸々の力を受けて振り子は次第に動きを弱めやがて止まってしまいますので、それを補うためにやはりゼンマイを用いて常に一定の振り幅となるように調整しております。 ここにやはりまた職人の腕が必要になってくるわけですね。 まぁ今では普通の時計にただの飾りとして振り子が付いているだけというものも多いのですが」 「ふぅーん」
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